「リュド殿とは上手くいったんですね」
「はい! これもマキウス様のお陰です! ありがとうございました」

 ヴィオーラの屋敷でリュドヴィックと話した日の夜。
 アマンテが来るまで、部屋で眠そうなニコラを抱いていたモニカは、いつもより早く帰宅したマキウスに、昼間のリュドヴィックとの会話を話したのだった。

「お兄ちゃんは、まだしばらく、お姉様の屋敷に滞在するそうです」
「ではその内、屋敷に招待しましょう。子供の頃のモニカの話を聞きたいですし」

 マキウスはモニカの隣に座ると、両腕を差し出してきた。
 何を求めているのか察したモニカは、腕の中にいたニコラをそっとマキウスに渡した。
 最近のマキウスは、ニコラを抱くのに慣れてきたようで、危なげなく抱けるようになってきた。
 最初と比べて、これなら安心して任せられた。

 モニカの腕の中からマキウスの腕の中に移ったニコラは、マキウスの腕の中に移った時だけ泣きそうな顔をしたが、眠気に負けたのかすぐに落ち着いたようだった。
 すぐに父親に身を委ねると、また眠そうにしていたのだった。

「もう……。でも、私も知りたいです。『モニカ』さんのことを」

 すると、マキウスの腕の中で、ニコラは静かに寝息を立て始めた。
 最近は昼と夜の区別がつき始めてきたので、昼は起きてモニカたちと遊び、夜は眠るようになってきた。
 その方が、モニカもアマンテも助かるので、最近では昼間にたくさん遊んで疲れさせるようにしていたのだった。

「結局、『モニカ』は、私との結婚が嫌だったのでしょうか……」
「マキウス様?」

 すやすやと自身の腕の中で眠るニコラの顔を見つめたまま、マキウスは呟いた。

「時々、考えるんです。『モニカ』が心を開いてくれなかったのは、私のことが嫌いだったからではないかと……。『モニカ』の相手が私でなければ、『モニカ』は心を開いてくれたのではないかと」
「でも、相手がマキウス様じゃなければ、私たちは出会わなかったです」

 哀傷の含んだような顔をしていたマキウスだったが、モニカの言葉に顔を上げた。

「『モニカ』が階段から落ちなければ、私たちは出会えなかった……。『モニカ』の相手がマキウス様じゃなければ、私はここにいなかったかもしれません」

「花嫁」に選ばれた「モニカ」の相手がマキウスじゃなければ、モニカは今頃、ここにいなかっただろう。
 マキウスがここに居てもいいと言ってくれなかったら、元の世界に戻る方法を探して、モニカはこの屋敷を出て、当て所なくこの世界を彷徨っていたかもしれない。

「私はマキウス様だったから、ここに居たいと思いました。今幸せなのも、マキウス様のお陰です。だから、そんなこと、言わないで下さい……」

 モニカは両手を強く握りしめた。
 そんなモニカを、マキウスは空いている手で抱き寄せてくれたのだった。

「……すみません。貴女を傷つけるようなことを言いました」
「いえ……。私の方こそすみません。『モニカ』が階段から落ちなければ、って言って」