御國が話し終わる頃には、外は完全に暗くなっていた。
この世界にも昼と夜があり、太陽と月があり、晴れの日や雨の日がある事を知ったのは、「モニカ」として目を覚ましてすぐの頃だった。
「俄かには、信じ難い話ではありますが……」
旦那様は眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
「そう思われても仕方がないと思います。私が旦那様の立場でもそう思います」
御國はサイドテーブルに置いていたコップを手に取ると口をつけた。
水はすっかり温くなっていたのだった。
「ただ、私は貴方が嘘をついていないと思っています」
旦那様の言葉に、コップから口を離した御國は首を傾げた。
「それは、どういう……?」
「ここからはあくまで私の憶測です。それでも、聞いてくれますね?」
有無を言わせぬ強い眼差しも向けられて、御國は小さく頷いたのだった。
「おそらく、モニカは死んでいます。元の世界の貴女も……」
「はい。少なくとも元の世界の『私』はそうだと思います。ただ、どうしてモニカさんも?」
御國が返すと、旦那様は首を戻して正面の壁をじっと見つめたのだった。
「モニカが階段から落ちたと聞いて駆けつけた時、辺りには血臭が漂っていました……。もう助からないだろうという程に」
モニカが階段から落ちたと、使用人から報告を受けたマキウスが仕事先から駆けつけた時、階段の下には、うつ伏せになったモニカが倒れていた。
モニカの頭からは大量の血が流れており、辺りには血臭が漂っていた。
旦那様は医師を呼んでモニカを診てもらったが、生存は絶望的だと言われたのだった。
それでも、旦那様は一縷の望みにかけることにした。
使用人に命じて、モニカが使っていた部屋――元々は、ニコラとニコラの乳母が使う予定だった部屋、にモニカを寝かせた。
早く目が覚めることを願って、時折、ニコラを同じ部屋に寝かせて――。
「何が原因で貴方がモニカの中に入ったのかはわかりません。ただ、モニカの中に入るきっかけはそれしかないと思いました」
御國はサイドテーブルにコトリと音を立てて、コップを置いた。
「つまり、モニカさんは目が覚めることなく死んで、代わりに元の世界で死んだはずの私が、何らかの方法でモニカさんの中に入ったと……?」
「ええ」と、旦那様は悲しげに頷いた。
「もしかしたら、貴方の元の身体には、モニカが入っている可能性もあり得なくはないですが……。貴方の話からすると、貴方は死んでいるのでしょう? それなら、今はそれしか考えられません」
御國は胸元をぎゅっと握りしめた。
「もし、私が元の身体に戻ろうとしたら、それは私だけでなく、この身体も……。モニカさんも死ぬことになるんですか……?」
「……おそらくは」
旦那様がそっと目を伏せると、御國も俯いたのだった。
「やっぱり、そうなんですね……。なんとなくそんな気はしていました」
「けれども」
旦那様は顔を上げると、御國の手を握った。
さっきとは違い、今度は優しく、そっと。
「少なくとも、私は貴女が生きていてくれて、良かったと思っていますよ」
「それは、どうして……?」
御國が目を大きく見開いて、旦那様を見つめる。
すると、旦那様は小さく笑ったのだった。
この世界にも昼と夜があり、太陽と月があり、晴れの日や雨の日がある事を知ったのは、「モニカ」として目を覚ましてすぐの頃だった。
「俄かには、信じ難い話ではありますが……」
旦那様は眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
「そう思われても仕方がないと思います。私が旦那様の立場でもそう思います」
御國はサイドテーブルに置いていたコップを手に取ると口をつけた。
水はすっかり温くなっていたのだった。
「ただ、私は貴方が嘘をついていないと思っています」
旦那様の言葉に、コップから口を離した御國は首を傾げた。
「それは、どういう……?」
「ここからはあくまで私の憶測です。それでも、聞いてくれますね?」
有無を言わせぬ強い眼差しも向けられて、御國は小さく頷いたのだった。
「おそらく、モニカは死んでいます。元の世界の貴女も……」
「はい。少なくとも元の世界の『私』はそうだと思います。ただ、どうしてモニカさんも?」
御國が返すと、旦那様は首を戻して正面の壁をじっと見つめたのだった。
「モニカが階段から落ちたと聞いて駆けつけた時、辺りには血臭が漂っていました……。もう助からないだろうという程に」
モニカが階段から落ちたと、使用人から報告を受けたマキウスが仕事先から駆けつけた時、階段の下には、うつ伏せになったモニカが倒れていた。
モニカの頭からは大量の血が流れており、辺りには血臭が漂っていた。
旦那様は医師を呼んでモニカを診てもらったが、生存は絶望的だと言われたのだった。
それでも、旦那様は一縷の望みにかけることにした。
使用人に命じて、モニカが使っていた部屋――元々は、ニコラとニコラの乳母が使う予定だった部屋、にモニカを寝かせた。
早く目が覚めることを願って、時折、ニコラを同じ部屋に寝かせて――。
「何が原因で貴方がモニカの中に入ったのかはわかりません。ただ、モニカの中に入るきっかけはそれしかないと思いました」
御國はサイドテーブルにコトリと音を立てて、コップを置いた。
「つまり、モニカさんは目が覚めることなく死んで、代わりに元の世界で死んだはずの私が、何らかの方法でモニカさんの中に入ったと……?」
「ええ」と、旦那様は悲しげに頷いた。
「もしかしたら、貴方の元の身体には、モニカが入っている可能性もあり得なくはないですが……。貴方の話からすると、貴方は死んでいるのでしょう? それなら、今はそれしか考えられません」
御國は胸元をぎゅっと握りしめた。
「もし、私が元の身体に戻ろうとしたら、それは私だけでなく、この身体も……。モニカさんも死ぬことになるんですか……?」
「……おそらくは」
旦那様がそっと目を伏せると、御國も俯いたのだった。
「やっぱり、そうなんですね……。なんとなくそんな気はしていました」
「けれども」
旦那様は顔を上げると、御國の手を握った。
さっきとは違い、今度は優しく、そっと。
「少なくとも、私は貴女が生きていてくれて、良かったと思っていますよ」
「それは、どうして……?」
御國が目を大きく見開いて、旦那様を見つめる。
すると、旦那様は小さく笑ったのだった。