(これは……)
ぼんやりとだが、モニカの頭の中に浮かんできたのは、子供の頃のモニカがリュドヴィックに頭を撫でられて、喜んでいる場面であった。
この場面は「モニカ備忘録」の中になかったような気がした。
すると、これはこのモニカの身体が覚えていた記憶なのだろうか。
どうやら、モニカは昔から褒められたり、心配をかけたりする度に、リュドヴィックに頭を撫でられていたらしい。
「モニカ備忘録」の中にも、同じ様にリュドヴィックに頭を撫でられている記憶があった。
今のモニカの胸の中が温かくなったことから、この時の「モニカ」も頭を撫でられて嬉しかったのだろう。
御國だった頃は、ほとんど褒められたことがなければ、こうして頭を撫でられたことも無かったので、嬉しさと気恥ずかしさが混ざった、むず痒い気持ちになったのだった。
「せっかくだ。この国に来てからの話を聞かせて欲しい」
「うん、いいよ!」
モニカはニコラをアマンテに預けると、ティカとエクレアが用意してくれたお茶と共に、屋敷での生活や、マキウスやニコラの話、アマンテやティカたち使用人の話をした。
そうは言っても、モニカが目覚めてからの話が主であり、「モニカ」の話は「モニカ備忘録」にもほとんど無いので、曖昧な話し方になってしまったが。
モニカの話を聞いたリュドヴィックは、安心したのか愁眉を開いたようだった。
「生まれ故郷から離れ、知る者も、頼る者も居ない中での結婚と出産で、さぞかし心細い思いをしているのではないかと心配したが……。楽しそうなら良かった」
「うん。毎日楽しいよ。全く心細くないと言ったら、嘘になるけれども……」
この世界に来たばかりの頃は、勝手が分からず、使用人を始めとして、夫であったマキウスからも距離を置かれていて、モニカは心細い思いをした。
心を慰めてくれるのは、無垢な笑顔を向けてくれるニコラだけであった。
「でも、マキウス様を始めとする使用人の皆さんが優しくしてくれるの。今は心細くないよ。だから、大丈夫」
「そうか……」
「それに最近は、お姉様ーーヴィオーラ様も気遣ってくれるの!」
弾んだ声で話すモニカに釣られるように、リュドヴィックも微笑んだのだった。
「マキウス殿のご家族とも仲が良いのだな」
「うん!」
「世に聞く義理の家族は、嫁に厳しいと聞いていたが」
「全然! それどころか、お姉様は私の憧れなの! いつか、私もあんな風にお仕事がバリバリ出来るキャリアウーマンみたいな大人のお姉さんぽくなりたいんだ……」
「今でも充分、大人だから大丈夫だ」
二人で笑っていると、リュドヴィックは「そうだ」と声を上げた。
「せっかくだ。いつものように、髪を切ってくれないか?」
「えっ!? お兄ちゃんの髪を!?」
「ここのところ、散髪する暇がなくて伸ばしっぱなしになっていたんだ。そろそろ邪魔になってきたし、この機会に切ってくれないか?」
「モニカ備忘録」の中には、リュドヴィックの髪を切っている記憶が無かった。
(ど、どうしよう……)
「モニカ」にとっては、食事や沐浴の様に日々の生活の中で行う当たり前のことで、記憶に留めておく程のことでは無かったのかもしれない。
(断ったら怪しまれるよね……?)
モニカが内心で悩んでいる間も、リュドヴィックは期待するようにモニカを見ていたのだった。
「いつものように切ってくれて構わない。それこそ、二人で暮らしていた頃のように」
「……わかった」
モニカは部屋の隅に控えていたティカに、道具を持ってくるようにお願いしたのだった。
ぼんやりとだが、モニカの頭の中に浮かんできたのは、子供の頃のモニカがリュドヴィックに頭を撫でられて、喜んでいる場面であった。
この場面は「モニカ備忘録」の中になかったような気がした。
すると、これはこのモニカの身体が覚えていた記憶なのだろうか。
どうやら、モニカは昔から褒められたり、心配をかけたりする度に、リュドヴィックに頭を撫でられていたらしい。
「モニカ備忘録」の中にも、同じ様にリュドヴィックに頭を撫でられている記憶があった。
今のモニカの胸の中が温かくなったことから、この時の「モニカ」も頭を撫でられて嬉しかったのだろう。
御國だった頃は、ほとんど褒められたことがなければ、こうして頭を撫でられたことも無かったので、嬉しさと気恥ずかしさが混ざった、むず痒い気持ちになったのだった。
「せっかくだ。この国に来てからの話を聞かせて欲しい」
「うん、いいよ!」
モニカはニコラをアマンテに預けると、ティカとエクレアが用意してくれたお茶と共に、屋敷での生活や、マキウスやニコラの話、アマンテやティカたち使用人の話をした。
そうは言っても、モニカが目覚めてからの話が主であり、「モニカ」の話は「モニカ備忘録」にもほとんど無いので、曖昧な話し方になってしまったが。
モニカの話を聞いたリュドヴィックは、安心したのか愁眉を開いたようだった。
「生まれ故郷から離れ、知る者も、頼る者も居ない中での結婚と出産で、さぞかし心細い思いをしているのではないかと心配したが……。楽しそうなら良かった」
「うん。毎日楽しいよ。全く心細くないと言ったら、嘘になるけれども……」
この世界に来たばかりの頃は、勝手が分からず、使用人を始めとして、夫であったマキウスからも距離を置かれていて、モニカは心細い思いをした。
心を慰めてくれるのは、無垢な笑顔を向けてくれるニコラだけであった。
「でも、マキウス様を始めとする使用人の皆さんが優しくしてくれるの。今は心細くないよ。だから、大丈夫」
「そうか……」
「それに最近は、お姉様ーーヴィオーラ様も気遣ってくれるの!」
弾んだ声で話すモニカに釣られるように、リュドヴィックも微笑んだのだった。
「マキウス殿のご家族とも仲が良いのだな」
「うん!」
「世に聞く義理の家族は、嫁に厳しいと聞いていたが」
「全然! それどころか、お姉様は私の憧れなの! いつか、私もあんな風にお仕事がバリバリ出来るキャリアウーマンみたいな大人のお姉さんぽくなりたいんだ……」
「今でも充分、大人だから大丈夫だ」
二人で笑っていると、リュドヴィックは「そうだ」と声を上げた。
「せっかくだ。いつものように、髪を切ってくれないか?」
「えっ!? お兄ちゃんの髪を!?」
「ここのところ、散髪する暇がなくて伸ばしっぱなしになっていたんだ。そろそろ邪魔になってきたし、この機会に切ってくれないか?」
「モニカ備忘録」の中には、リュドヴィックの髪を切っている記憶が無かった。
(ど、どうしよう……)
「モニカ」にとっては、食事や沐浴の様に日々の生活の中で行う当たり前のことで、記憶に留めておく程のことでは無かったのかもしれない。
(断ったら怪しまれるよね……?)
モニカが内心で悩んでいる間も、リュドヴィックは期待するようにモニカを見ていたのだった。
「いつものように切ってくれて構わない。それこそ、二人で暮らしていた頃のように」
「……わかった」
モニカは部屋の隅に控えていたティカに、道具を持ってくるようにお願いしたのだった。