ある時、ガランツスとレコウユス、両国の平和を脅かす事件が起こった。
 ガランツスからレコウユスに密入国した犯罪者集団が、当時、レコウユスで問題視されていた犯罪者集団と手を組んで、一大犯罪者組織となったのだった。

 当時は今と違い、出国に関しては両国共に検査を行っていなかった。
 その為、荷物に紛れて国を出たガランツスの犯罪者が国外に多く存在していたのだった。
 そんな彼らを放置していた結果、犯罪者組織同士が手を組み始めて、巨大な犯罪者組織となったらしい。

 彼らはガランツスと他国との国境付近にあった廃村を根城にして、誘拐してきたカーネ族や違法魔法石の売買を行っていた。レコウユスから出国された荷物を受け取るガランツス側の者も犯罪者組織の関係者であり、騎士団が摘発した時には既にかなりの人数のカーネ族、相当数の違法魔法石が犯罪者組織に流れていたらしい。人身売買に遭ったカーネ族たちの行方は今でもガランツス側の騎士団が追っているとの事だった。

 そんな彼らを討伐する為に、両国は腕に自信のある騎士たちを集めた。
 その中で、ガランツス側から選ばれた騎士の一人がリュドヴィックであった。
 またレコウユス側からは、後方に控える補給部隊の担当として、当時まだ一騎士だったヴィオーラが選ばれたとの事だった。

 マキウスから話を聞いたモニカは、「あっ」と気づいたのだった。

「それじゃあ、もしかしてお姉様とお兄ちゃんは知り合いの可能性があるんですね!」

 リュドヴィックをブーゲンビリア侯爵家に連れて行った時、二人は互いに驚いた顔をしていた。
 あれは思わぬところで、顔見知りに会ったからの反応だったのだろうか。

「それは何とも言えませんが……。姉上がこの討伐に選ばれた際、私はまだ地方の騎士団で騎士見習いをしていたので……。この討伐に関する話も、モニカを迎え入れた際に、初めて聞いたくらいです」

 両国から集められた騎士たちは手を組んで、犯罪組織を壊滅させた。
 その際に、一番の手柄を上げたのが、犯罪者組織の首領を討ち取ったリュドヴィックであった。

 両国の危機を救ったリュドヴィックは、英雄として両国から称えられた。
 その時の功績を称え、両国の国王は褒美として、リュドヴィックの望みを叶えることにした。

 そこでリュドヴィックが望んだのか、「妹のモニカの幸せ」であった。

 リュドヴィックによると、たまたまリュドヴィックが討伐に出ていた時に、リュドヴィックたちを引き取って育ててくれた老騎士が亡くなったらしい。
 特に付きっきりで老騎士の世話をしていたモニカが酷く落ち込んでしまい、食事も取らず、ずっと塞ぎ込んでいたからとのことだった。

 これまで老騎士やリュドヴィックを支えてくれた大切な妹。
 これからは、幸せになって欲しい。

 その願いを込めて、リュドヴィックは国王たちに望みを伝えらしい。
 その結果、リュドヴィックに与えられた褒美が、栄誉なるレコウユスへの「花嫁」に、モニカを加えることであったーー。

 リュドヴィックについて一通り説明してくれたマキウスは、そっと息をついたようだった。

「この討伐で、姉上は騎士としての功績を称えられて、女性初の士官となりました」
「この時のお姉様は、まだ士官じゃなかったんですね」
「ええ。この時の姉上は、まだ士官ではなく騎士団の一騎士でした」

 この時のヴィオーラを始めとする女性騎士たちの主な任務は後方支援で、前線で戦う騎士たちの物資の調達や怪我人の手当てを担当していたらしい。

「ですが、犯罪組織に隙を突かれ、前線で戦っていた騎士たちの一部が大打撃を受けて、陣形が乱れました。幸いにして死者はいませんでしたが、陣形が崩れたことで、騎士たちは散り散りになったそうです。彼らが手当てを受けている間、代わりに指揮を執って前線で戦ったのが姉上です」
「お姉様……! カッコイイですね! 尊敬します……!」

 モニカが感嘆の息をついたからだろうか。マキウスは眉根を寄せると、「私も指揮を執って戦えます」とムッと口を尖らせたのだった。