「だ、誰って。私はモニカです。旦那様の妻で、ニコラの母親の」
御國は旦那様から逃れようとするが、手を離してくれなかった。
「いいえ。モニカは、私の知っているモニカは、こんな人ではなかった」
旦那様は掴んだ手に、ますます力を込めてくる。
「モニカは私からの贈り物は、何一つとして受け取らなかった。
それどころか、私との間にニコラを産んだことも……私と結婚したことさえ、モニカは酷く嘆いていた」
「だ、旦那様……」
旦那様は端正な顔を、ぐっと近づけてきたのだった。
「それなのに、貴女は目が覚めた時から、自分以外の誰にも触れさせなかったニコラを私に抱かせ、嫌っていた使用人たちに優しい言葉をかけた。
そして、昨夜は私に縋りついてきて、今は私からの贈り物を受け取っている」
御國は後ろに身を引いて逃れようとしたが、旦那様は離してくれなかった。
「目が覚めた貴女は別人のようになっていた。
まるで、モニカの顔をした別人のように」
真っ直ぐに見つめてくる旦那様の紫色の目から、御國は逃れられなかった。
「だ、旦那様。顔が近いです……。それと、そろそろ手が痛いです……」
先程から、旦那様に握られた右手は痛みを訴えていた。
しかし、旦那様は御國を解放してくれそうになかった。
(どうしよう。全部、話そうかな……)
御國が悩んでいると、頭がズキリと痛んだのだった。
(こんな時に……!)
いつもより激しく痛む頭に顔を顰めていると、御國の様子に気づいた旦那様は、焦ったように手を離すと、解放してくれたのだった。
「どうしましたか? 手に力を入れ過ぎましたか……!」
「いえ! そうではないんです! ただ、頭が痛くて!」
痛みで倒れそうになると、旦那様は御國の肩を支えてくれたのだった。
「ベッドまで運びます。こちらへ」
御國は旦那様に支えられて、部屋のベッドに横になったのだった。
それから、御國がベッドで休んでいると、旦那様は恐る恐る声を掛けてきたのだった。
「気分はどうですか?」
旦那様に腰と胸元を緩めてもらい、ベッドで横になっていた。
「まだ頭は痛みますが、幾分か楽になりました。ご心配をおかけしてすみません」
御國が身体を起こして、ベッドの端に座ると、旦那様は水差しから水を汲んで渡してきた。
それに口をつけて、ちびちびと飲んでいると、旦那様は肩を落としたのだった。
「私の方こそ、貴方が元気になったとばかり思っていました。……気づかずに申し訳ありません」
「そんなことはありません」
頭を下げる旦那様に、水を飲んでいた御國は慌てたのだった。
「旦那様には色々と良くして頂いています。だから、気にしないで下さい」
「それよりも」と、御國はコップをサイドテーブルに置いたのだった。
「旦那様の言う通り、私はモニカではありません」
御國のその言葉に、旦那様はハッとしたのだった。
「やはり、そうでしたか……」
「旦那様や使用人の皆さんを騙す形となってすみません……。今からお話しします。私……モニカじゃない『私』について」
御國は旦那様がベッドに座れるように、端に少し寄った。旦那様は御國に顔をだけ御國の方を向いて座ったのだった。
「信じられないかもしれませんが、私はこことは違う世界に住んでいたんです」
そうして、御國は自分が元いた世界と、自分がこの世界に来る直前にあった出来事――階段から落ちて死んだこと、について話したのだった。
御國は旦那様から逃れようとするが、手を離してくれなかった。
「いいえ。モニカは、私の知っているモニカは、こんな人ではなかった」
旦那様は掴んだ手に、ますます力を込めてくる。
「モニカは私からの贈り物は、何一つとして受け取らなかった。
それどころか、私との間にニコラを産んだことも……私と結婚したことさえ、モニカは酷く嘆いていた」
「だ、旦那様……」
旦那様は端正な顔を、ぐっと近づけてきたのだった。
「それなのに、貴女は目が覚めた時から、自分以外の誰にも触れさせなかったニコラを私に抱かせ、嫌っていた使用人たちに優しい言葉をかけた。
そして、昨夜は私に縋りついてきて、今は私からの贈り物を受け取っている」
御國は後ろに身を引いて逃れようとしたが、旦那様は離してくれなかった。
「目が覚めた貴女は別人のようになっていた。
まるで、モニカの顔をした別人のように」
真っ直ぐに見つめてくる旦那様の紫色の目から、御國は逃れられなかった。
「だ、旦那様。顔が近いです……。それと、そろそろ手が痛いです……」
先程から、旦那様に握られた右手は痛みを訴えていた。
しかし、旦那様は御國を解放してくれそうになかった。
(どうしよう。全部、話そうかな……)
御國が悩んでいると、頭がズキリと痛んだのだった。
(こんな時に……!)
いつもより激しく痛む頭に顔を顰めていると、御國の様子に気づいた旦那様は、焦ったように手を離すと、解放してくれたのだった。
「どうしましたか? 手に力を入れ過ぎましたか……!」
「いえ! そうではないんです! ただ、頭が痛くて!」
痛みで倒れそうになると、旦那様は御國の肩を支えてくれたのだった。
「ベッドまで運びます。こちらへ」
御國は旦那様に支えられて、部屋のベッドに横になったのだった。
それから、御國がベッドで休んでいると、旦那様は恐る恐る声を掛けてきたのだった。
「気分はどうですか?」
旦那様に腰と胸元を緩めてもらい、ベッドで横になっていた。
「まだ頭は痛みますが、幾分か楽になりました。ご心配をおかけしてすみません」
御國が身体を起こして、ベッドの端に座ると、旦那様は水差しから水を汲んで渡してきた。
それに口をつけて、ちびちびと飲んでいると、旦那様は肩を落としたのだった。
「私の方こそ、貴方が元気になったとばかり思っていました。……気づかずに申し訳ありません」
「そんなことはありません」
頭を下げる旦那様に、水を飲んでいた御國は慌てたのだった。
「旦那様には色々と良くして頂いています。だから、気にしないで下さい」
「それよりも」と、御國はコップをサイドテーブルに置いたのだった。
「旦那様の言う通り、私はモニカではありません」
御國のその言葉に、旦那様はハッとしたのだった。
「やはり、そうでしたか……」
「旦那様や使用人の皆さんを騙す形となってすみません……。今からお話しします。私……モニカじゃない『私』について」
御國は旦那様がベッドに座れるように、端に少し寄った。旦那様は御國に顔をだけ御國の方を向いて座ったのだった。
「信じられないかもしれませんが、私はこことは違う世界に住んでいたんです」
そうして、御國は自分が元いた世界と、自分がこの世界に来る直前にあった出来事――階段から落ちて死んだこと、について話したのだった。