「モニ……」
「マキウス様!」

 その日の夜遅く、マキウスが寝室に入ってくるなり、モニカは夫の身体に飛びついたのだった。

「待っていました! さあ、こちらへ!」
「今日はいつになく積極的ですね……」

 マキウスの腕をグイグイ引っ張ると、ソファーに連れて行った。
 二人並んで座ると、早速、マキウスは口を開いたのだった。

「仕事から帰宅した際に、使用人から『話があるので、いつもより早めに寝室に来て欲しい』という伝言を預かりました。
 それで、いつもより早く寝支度を済ませて来ましたが……何かありましたか?」

 本来なら、晩餐の時に聞いても良かったが、今夜のマキウスはいつもより遅い帰宅であった。
 マキウスが帰宅した時には、既にモニカは晩餐を済ませて、アマンテにニコラを預けて沐浴をしていた。それもあって、マキウスが帰宅したら寝室に来て欲しいという伝言を使用人にお願いしていたのだった。

「お兄ちゃんから手紙が届いたんです! 明日、遊びに来たいって!」

 モニカはテーブルに置いていた封が開いた手紙を、マキウスに渡した。

「私も読んでいいんですか?」

 モニカが頷くと、手紙を受け取ったマキウスはざっと目を通している様だった。
 要約すると、手紙には、ヴィオーラの元での生活が落ち着いたので、モニカとゆっくり話したいことや、生まれたと聞いてから一度も会っていないリュドヴィックから見たら姪に当たるニコラに会ってみたい、といったことが書かれていたのだった。

「なるほど……。私は仕事でいませんが、私や使用人たちに気兼ねせずに、兄妹水入らず、有意義な時間を過ごして下さい」
「それはそうなんですが……。けれども、どうしましょう!?」

 マキウスは瞬きを繰り返した。

「どうとは、一体……?」
「私はお兄ちゃんが知っている『モニカ』ではありません! だから、お兄ちゃんのことを何も知らないのに、何をしたらいいのか……」

 モニカは困惑していた。
 貧民街で会った時は、何とか「モニカ備忘録」からリュドヴィックを見つけられた。
 それでも、リュドヴィックがどういう人物なのか、またリュドヴィックが知っている「モニカ」までは見つけられなかった。
 今のモニカにとって、リュドヴィックは兄ではなく、ただの初対面の男性でしかなかったのだった。

「それは……。そうでしたね」
「明日、リュドさんと会っても、どうしたらいいかわからないんです……。それで、マキウス様が知っているリュドさんの情報を、私に教えて下さい!」
「と、言いましても……」

 マキウスは腕を組むと、考え込んでいるようだった。

「私も『モニカ』とリュド殿についてはよく知りません。二人は共に孤児であり、血の繋がりのない兄妹というくらいしか……」
「そんなぁ……」

 モニカが肩を落としていると、マキウスは「ですが」と続ける。

「私が知っているのは、モニカを迎え入れた際に、国から教えてもらった情報だけです。それでも良ければ、お教えしますよ」

 そうして、マキウスは話し出したのだった。