それから、途方に暮れていたモニカたちに気づいた他の使用人によって、三人は応接間に案内された。
 さすが侯爵家と言えばいいのか、客間は赤い絨毯が引かれており、調度品も豪華なものであった。
 そんな部屋を眺め回していると、パタパタと足音が近づいてきて、客間の扉が勢いよく開かれたのだった。

「マキウス! モニカさん!」
「姉上!」
「お姉様!」

 客間に駆け込んで来たヴィオーラは、どこかに出掛けようとしていたのか、外出着であった。
 ヴィオーラはソファーから立ち上がったモニカに抱き着くと、安堵の息をついたのだった。

「良かった……! 騎士団から貧民街で強盗に襲われていたと聞いたので……。マキウスのことだから、大丈夫だとは思っていましたが……。無事で本当に良かったです」
「お、お姉様……」

 急に義姉(あね)に抱きしめられて、緊張と困惑でどうすればいいか分からず戸惑っていたモニカだったが、ヴィオーラはすぐに身体を離すと、マキウスと同じアメシストの様な目を細めて、泣きそうな顔で笑ったのだった。

「すみません、お姉様。ご心配をお掛けして……」
「いえ。いいのですよ。それよりもリュドヴィック様をお連れ頂き、ありがとうございます。これから、探しに行こうと思っていました……」

 すると、ヴィオーラは一点を見つめまま、アメシストの様な目を見開いて固まっていた。
 ヴィオーラの視線を辿って振り返ると、そこには同じ様に、澄んだ青い目を見開いてヴィオーラを見つめ返すリュドヴィックの姿があったのだった。

「貴方が……リュドヴィック様ですね」
「ええ。ご挨拶が遅れました。私はリュドヴィックと申します。この度は我が身元をお引き受け頂きありがとうございます」
「こちらこそ、お迎えが行き違った様で申し訳ありません。
 私はヴィオーラ・シネンシス・ブーゲンビリアと申します。現在のブーゲンビリア侯爵です」

 ヴィオーラが一礼するのに合わせて、リュドヴィックも胸に片手を当てて、二人は優雅に挨拶を交わしたのだった。

 ヴィオーラの説明によると、リュドヴィックを迎えに行かせた侯爵家の使用人から、リュドヴィックが待ち合わせ場所に現れなかったと聞いて、使用人たちと行方を探していたらしい。
 その最中に、モニカたちが貧民街で強盗に襲われていたと騎士団の関係者から聞いて、心配していたとのことだった。