「えっと、あの……」
「すっかり男爵夫人らしくなって、最初見た時は誰だかわからなかった。
最近まで階段から転落して意識を失っていたと聞いたが、変わりはないか?」
「えっと、はい」
金髪の男は「良かった」と喜んでいた。
その隙に、モニカは思い出そうとしていた。
(この人、誰だっけ? 私の知り合いではないような……)
そもそも、この世界にモニカの知り合いは少ない。
更に人間の知り合いはいないはず。
となると、「モニカ」の知り合いの可能性が高い。
(『モニカ』さんの知り合いなら……)
モニカになった日に、「モニカ」から引き継いだ記憶ーー「モニカ備忘録」の中に、答えはあるかもしれない。
モニカ備忘録を思い浮かべたモニカは、本のページを捲るように、「モニカ」の関係者を探していくと、すぐに該当する人物を見つけたのだった。
「……お兄ちゃん?」
「モニカ」の記憶の中で最初に出てくる人物にして、「モニカ」がこの国に嫁いでくるきっかけとなった両国を巻き込んだ事件を解決し、両国の危機を救った英雄。
孤児だったモニカを拾って、家族として育ててくれた人物。
モニカが呟くと、金髪の男はーー「モニカ」の兄は嬉しそうに笑顔を浮かべたのだった。
「ああ。そうだ! いつもと違って、反応がないから心配になったぞ!」
モニカはギクリとした。
それもそうだろう。誰だって、久しぶりの知り合いとの再会なら、もっと喜んでもおかしくない。
それなのに、モニカは素っ気ない態度を取ってしまった。
相手が不安になるのも、おかしくない。
「そ、そうだった? そういうつもりは無かったんだけどな……」
モニカが誤魔化すように笑っていたその時、辺りに怒りを含んだ静かな声が響いた。
「……いつまで抱き合っているんですか?」
「ま、マキウス様!?」
マキウスは兄からモニカを引き離すと、自分の後ろに庇った。
「私の妻に何をしているんですか?」
モニカを引き離された兄は、何度も瞬きをしていたが、ようやく合点がいったのか笑ったのだった。
「妹の旦那殿ですか。これは失礼しました」
兄は胸に手を当てると、優雅に一礼した。
その絵になる姿に、モニカが見惚れていると、兄は口を開いたのだった。
「ご挨拶が遅くなりました。私の名前はリュドヴィックと言います。孤児の為、姓はありません。どうかご了承の程、お願いします。
私のことは、どうぞリュドとお呼び下さい。
妹がお世話になっています。旦那殿」
兄はーーリュドヴィックは、顔を上げると、敵意はないというように、笑みを浮かべたのだった。
リュドヴィックの正体を知ったマキウスは、ようやく肩の力を抜いたようだった。
リュドヴィックに近寄ると、優雅に一礼したのだった。
「モニカの兄上ですか。これは失礼をしました。私はモニカの夫のマキウス・ハージェントです」
「マキウス殿ですか。若輩者の身ではありますが、よろしくお願いします」
マキウスが子供たちを帰すと、三人は貧民街を後にした。
モニカを挟む様に三人並んで歩きながら、モニカは気になっていたことをリュドヴィックに訊ねる。
「ところで、お兄ちゃんは、どうして貧民街にいたの?」
「私は待ち合わせをしていたのだが、道に迷ってしまってな。そうしたら、何やら騒ぎが起こったと聞いて駆けつけたんだ」
「待ち合わせですか?」
モニカを挟んでリュドヴィックの反対側を歩いていたマキウスは、怪訝な顔をしたのだった。
「はい。私がこの国に滞在する間の身元保証人になって頂く方です。確か……」
リュドヴィックは思い出そうと、考えながら話す。
「侯爵家の方で、女性が家督を継いだと言っていたかな……? 騎士団で士官をされているとか……」
それを聞いたモニカとマキウスは、顔を見合わせた。
「マキウス様、その方って、もしかして……」
モニカの言葉に、マキウスは苦い顔をしたのだった。
「……この国で、騎士団の士官を務めている女性侯爵は一人しかいません」
それは、モニカとマキウスのごく身近な人であった。
「すっかり男爵夫人らしくなって、最初見た時は誰だかわからなかった。
最近まで階段から転落して意識を失っていたと聞いたが、変わりはないか?」
「えっと、はい」
金髪の男は「良かった」と喜んでいた。
その隙に、モニカは思い出そうとしていた。
(この人、誰だっけ? 私の知り合いではないような……)
そもそも、この世界にモニカの知り合いは少ない。
更に人間の知り合いはいないはず。
となると、「モニカ」の知り合いの可能性が高い。
(『モニカ』さんの知り合いなら……)
モニカになった日に、「モニカ」から引き継いだ記憶ーー「モニカ備忘録」の中に、答えはあるかもしれない。
モニカ備忘録を思い浮かべたモニカは、本のページを捲るように、「モニカ」の関係者を探していくと、すぐに該当する人物を見つけたのだった。
「……お兄ちゃん?」
「モニカ」の記憶の中で最初に出てくる人物にして、「モニカ」がこの国に嫁いでくるきっかけとなった両国を巻き込んだ事件を解決し、両国の危機を救った英雄。
孤児だったモニカを拾って、家族として育ててくれた人物。
モニカが呟くと、金髪の男はーー「モニカ」の兄は嬉しそうに笑顔を浮かべたのだった。
「ああ。そうだ! いつもと違って、反応がないから心配になったぞ!」
モニカはギクリとした。
それもそうだろう。誰だって、久しぶりの知り合いとの再会なら、もっと喜んでもおかしくない。
それなのに、モニカは素っ気ない態度を取ってしまった。
相手が不安になるのも、おかしくない。
「そ、そうだった? そういうつもりは無かったんだけどな……」
モニカが誤魔化すように笑っていたその時、辺りに怒りを含んだ静かな声が響いた。
「……いつまで抱き合っているんですか?」
「ま、マキウス様!?」
マキウスは兄からモニカを引き離すと、自分の後ろに庇った。
「私の妻に何をしているんですか?」
モニカを引き離された兄は、何度も瞬きをしていたが、ようやく合点がいったのか笑ったのだった。
「妹の旦那殿ですか。これは失礼しました」
兄は胸に手を当てると、優雅に一礼した。
その絵になる姿に、モニカが見惚れていると、兄は口を開いたのだった。
「ご挨拶が遅くなりました。私の名前はリュドヴィックと言います。孤児の為、姓はありません。どうかご了承の程、お願いします。
私のことは、どうぞリュドとお呼び下さい。
妹がお世話になっています。旦那殿」
兄はーーリュドヴィックは、顔を上げると、敵意はないというように、笑みを浮かべたのだった。
リュドヴィックの正体を知ったマキウスは、ようやく肩の力を抜いたようだった。
リュドヴィックに近寄ると、優雅に一礼したのだった。
「モニカの兄上ですか。これは失礼をしました。私はモニカの夫のマキウス・ハージェントです」
「マキウス殿ですか。若輩者の身ではありますが、よろしくお願いします」
マキウスが子供たちを帰すと、三人は貧民街を後にした。
モニカを挟む様に三人並んで歩きながら、モニカは気になっていたことをリュドヴィックに訊ねる。
「ところで、お兄ちゃんは、どうして貧民街にいたの?」
「私は待ち合わせをしていたのだが、道に迷ってしまってな。そうしたら、何やら騒ぎが起こったと聞いて駆けつけたんだ」
「待ち合わせですか?」
モニカを挟んでリュドヴィックの反対側を歩いていたマキウスは、怪訝な顔をしたのだった。
「はい。私がこの国に滞在する間の身元保証人になって頂く方です。確か……」
リュドヴィックは思い出そうと、考えながら話す。
「侯爵家の方で、女性が家督を継いだと言っていたかな……? 騎士団で士官をされているとか……」
それを聞いたモニカとマキウスは、顔を見合わせた。
「マキウス様、その方って、もしかして……」
モニカの言葉に、マキウスは苦い顔をしたのだった。
「……この国で、騎士団の士官を務めている女性侯爵は一人しかいません」
それは、モニカとマキウスのごく身近な人であった。