「あれ~? マキウスじゃん!」
「ほんとだあ!」

 モニカが後ろを振り返ると、そこには先程まで川下に居た子供たちがいた。
 十歳ぐらいまでの年齢がバラバラの真っ黒な顔をした子供たちが、首を傾げていたのだった。

「きょうはキシダンのふくじゃないんだ?」

 子供たちの中で、一番歳上と思しき男の子が首を傾げる。

「ええ。今日はお休みなんです」
「じゃあ、きょうはおやつはないんだ……」

 その男の子と手を繋いでいた五、六歳くらいの女の子は肩を落としたのだった。

「そんなことはありませんよ。はい、みなさんで分けて、仲良く召し上がって下さい」

 マキウスは懐から干し果物や砂糖漬けの花びらが入った革袋ーーここに来る前にマキウスが市場で買っていた、を女の子に渡したのだった。
 女の子は頬を赤く染めて目を丸くし、周りの子供達は、女の子の掌の革袋を見つめたのだった。

「いいの? もらっても」
「ええ。構いません。その代わりに喧嘩しないで分け合って下さいね」
「ありがとう! マキウス!」

 マキウスは子供たちの汚れた頭を順繰りに撫でていた。
 マキウスが子供が好きな理由は、もしかしたらここにあるのかもしれないと、モニカはこっそり微笑んだのだった。

 そんなマキウスを微笑ましい気持ちで見守っていると、モニカに気づいた七、八歳くらいの男の子が指差してきた。

「なあなあ、マキウス。そのおねえさんは?」
「もしかして、マキウスのおんな?」

 別の男の子が訊ねると、子供たちは口々に騒ぎ出した。
 それを面白く思ったのか、マキウスがモニカの腰に手を回すと、抱き寄せてきたのだった。

「彼女は私の女ではありません。私の妻です。そうですよね、モニカ?」
「は、はい。そうですね!」

 マキウスに答えるようにモニカは頷くと、子供たちと目線を合わせるようにしゃがんだ。
 なるべく子供を怖がらせないようにという考えからだったが、そんなモニカが意外だったのだろう。
 子供たちはおっかなびっくり見つめ返してきたのだった。

「初めまして。マキウス様の妻のモニカです」

 モニカは微笑むと、子供たちは「わぁ」と声を上げた。

「かわいいおねえさんだ!」
「う、うん。そうだね……」

 七、八歳くらいの女の子は目を丸くすると、恥ずかしそうに一番歳上の男の子の後ろに隠れてしまった。
 モニカは女の子に近づくと、微笑んだ。

「私ともお友達になってくれるかな?」
「え、でも……」

 怯えるように見つめてくる女の子に対して、ニコラに話しかける時の様に、優しく、穏やかに声を掛ける。

「お友達になって欲しいんだけど……。ダメかな……?」
「……いいの? わたしたちと?」
「勿論!」

 モニカが満面の笑みを向けると、女の子の周りにいた子供たちは、「やったー!」とモニカを囲んだ。
 男の子の後ろに隠れていた女の子も、笑いながらモニカの側に寄って来てくれたのだった。

「やれやれ。これは妬いてしまいますね」

 マキウスが苦笑していると、「誰か~!」と男の声が聞こえてきた。

「どうしましたか?」
「あっ! マキウス様!」

 モニカたちの後ろから走ってきた若い男は、マキウスの姿に気づくと走り寄ってきた。
 薄汚れた格好をした若い男は、マキウスの前で立ち止まると、肩で息をしたのだった。

「あっちで、この男たちが揉めていて……。多分、一人は強盗だと思うんですが……。それで……」

 マキウスは男が指差した方を確認すると、顔を引き締めた。

「私が行きます。貴方は広場に出て、巡回中の騎士か、いなければ騎士団に連絡をするように店の者に伝えて下さい」
「はい!」

 それだけ言うと、男はモニカたちの横を通って走り去って行った。

「モニカは子供たちとここに居て下さい」

 それだけ言うと、マキウスは男がやって来た方に走って行ったのだった。

「マキウス様、大丈夫かな……」
「しんぱい?」
「え、ええ……」

 マキウスが去って行った方を見つめていると、モニカの手やドレスの裾を引っ張ってきたのだった。

「おねえさん。ぼくたちもいこう」
「うん。あたしもきになる!」
「でも、ここで待つように言われたし……」
「いいから! マキウスがしんぱいなんだろう! はやくいこう」

 子供たちに囲まれたモニカは子供たちに背中を押されるようにして、マキウスの後を追いかけたのだった。