加工屋を出ると、二人は王都の散策に戻った。
歩きながら説明してくれたマキウスによると、広場を中心とした辺りは王都の中でも特に活気のある場所らしい。
「この近くには、文官を目指す者の学校や、大天使様を祀る大聖堂、国の歴史をまとめた公文書館もあります」
辺りを見渡せば、先程の加工屋の周辺と比べて、眼鏡を掛けて、きっちり身だしなみを整えた生真面目そうな若い男性や、聖書がよく似合いそうな白い髭を生やしたローブ姿の老爺が多い気がした。
モニカが物珍しそうに、王都の街並みを眺めながら大通りを歩いている内に、二人は先程の市場があった通りから、最初に馬車を降りた広場に戻ってきた。
加工屋や市場があった通りの反対側に騎士団の本拠地である城や王城に続く通りがあり、そこから少し道が逸れたところに学校と公文書館があるらしい。
王城に向かう通りを歩きながら、右側に伸びる通りをずっと行くと大聖堂があり、更にその先にはガランツスに続く国の出入り口があると教えられたのだった。
「おそらく、この国に来た際にこの辺りを通ったかと思いますが、覚えは……?」
「すみません……。覚えていなくて……」
今のモニカは当然だが、前のモニカから受け継いだ記憶ーー「モニカ備忘録」を覗いても、ここを通った記憶はなかった。
やはり「モニカ」にとって、この国に来たことはあまり印象的な出来事では無かったのだろう。
「いえ。いいんです。それなら新鮮な気持ちで見られるでしょう。まずは大聖堂にお連れします」
マキウスに連れられて、モニカは大聖堂に入った。
大聖堂は身分に関係なく誰でも出入りができ、定期的に大司祭によるミサも行なっているとのことであった。モニカたちが行った時はミサをやっていないからか、大聖堂の中には数人しかいなかった。
「わぁ、綺麗ですね!」
高い天井一帯には色とりどりのステンドグラスが飾られていた。
御國だった頃、大学の授業の一環で礼拝堂に行った時にステンドグラスを見たことがあるが、それよりも範囲が広く、豪華であった。
「このステンドグラスは、この国の歴史を表しているそうです。地上にあったカーネ族の国にユマン族が来るところからずっと……。騎士団の詰め所となっている壁画に描かれている絵はこの大聖堂に飾られているステンドグラスを元にしているそうです」
「そうなんですね!」
モニカが上を向いてステンドグラスを眺めながら歩いていると、不意に左手を握られた。
振り返ると、手を握ったのはマキウスだった。
「マキウス様?」
「そうやって、上ばかり見ていたら、誰かにぶつかって危険です」
「あ、そうですよね。すみません……」
肩を落としたモニカの手をマキウスが引っ張ったので、モニカは顔を上げる。
「なので、ぶつからないように私が手を引きます」
「子供じゃないですから……」
「子供じゃなくて、貴女が大切な女性だから言っているのです」
恥ずかしいとは思ったが、腕を振り解こうとは思わなかった。
マキウスが自然とモニカの手に指を絡めてきたからかもしれない。
口では「危ない」と咎めつつも、それを止めさせないマキウスの優しさが嬉しかった。
「この奥にもステンドグラスが続いているんです。そちらにも行ってみませんか?」
「はい……」
モニカは赤面した顔をマキウスに見ないように、ステンドグラスを見上げ続けたのだった。
歩きながら説明してくれたマキウスによると、広場を中心とした辺りは王都の中でも特に活気のある場所らしい。
「この近くには、文官を目指す者の学校や、大天使様を祀る大聖堂、国の歴史をまとめた公文書館もあります」
辺りを見渡せば、先程の加工屋の周辺と比べて、眼鏡を掛けて、きっちり身だしなみを整えた生真面目そうな若い男性や、聖書がよく似合いそうな白い髭を生やしたローブ姿の老爺が多い気がした。
モニカが物珍しそうに、王都の街並みを眺めながら大通りを歩いている内に、二人は先程の市場があった通りから、最初に馬車を降りた広場に戻ってきた。
加工屋や市場があった通りの反対側に騎士団の本拠地である城や王城に続く通りがあり、そこから少し道が逸れたところに学校と公文書館があるらしい。
王城に向かう通りを歩きながら、右側に伸びる通りをずっと行くと大聖堂があり、更にその先にはガランツスに続く国の出入り口があると教えられたのだった。
「おそらく、この国に来た際にこの辺りを通ったかと思いますが、覚えは……?」
「すみません……。覚えていなくて……」
今のモニカは当然だが、前のモニカから受け継いだ記憶ーー「モニカ備忘録」を覗いても、ここを通った記憶はなかった。
やはり「モニカ」にとって、この国に来たことはあまり印象的な出来事では無かったのだろう。
「いえ。いいんです。それなら新鮮な気持ちで見られるでしょう。まずは大聖堂にお連れします」
マキウスに連れられて、モニカは大聖堂に入った。
大聖堂は身分に関係なく誰でも出入りができ、定期的に大司祭によるミサも行なっているとのことであった。モニカたちが行った時はミサをやっていないからか、大聖堂の中には数人しかいなかった。
「わぁ、綺麗ですね!」
高い天井一帯には色とりどりのステンドグラスが飾られていた。
御國だった頃、大学の授業の一環で礼拝堂に行った時にステンドグラスを見たことがあるが、それよりも範囲が広く、豪華であった。
「このステンドグラスは、この国の歴史を表しているそうです。地上にあったカーネ族の国にユマン族が来るところからずっと……。騎士団の詰め所となっている壁画に描かれている絵はこの大聖堂に飾られているステンドグラスを元にしているそうです」
「そうなんですね!」
モニカが上を向いてステンドグラスを眺めながら歩いていると、不意に左手を握られた。
振り返ると、手を握ったのはマキウスだった。
「マキウス様?」
「そうやって、上ばかり見ていたら、誰かにぶつかって危険です」
「あ、そうですよね。すみません……」
肩を落としたモニカの手をマキウスが引っ張ったので、モニカは顔を上げる。
「なので、ぶつからないように私が手を引きます」
「子供じゃないですから……」
「子供じゃなくて、貴女が大切な女性だから言っているのです」
恥ずかしいとは思ったが、腕を振り解こうとは思わなかった。
マキウスが自然とモニカの手に指を絡めてきたからかもしれない。
口では「危ない」と咎めつつも、それを止めさせないマキウスの優しさが嬉しかった。
「この奥にもステンドグラスが続いているんです。そちらにも行ってみませんか?」
「はい……」
モニカは赤面した顔をマキウスに見ないように、ステンドグラスを見上げ続けたのだった。