「待たせたな。これが依頼された品だ」

 店主がカウンターに差し出してきた布包みをマキウスは受け取ると、中身を確認していた。
 しばらく無言であちこち眺めると、満足そうに頷いたようだった。

「こちらが想像した以上の出来です。……素晴らしい」
「そんな慇懃に言われても、なあ……?」

 店主は困ったようにモニカを見つめてきたが、モニカにはマキウスが感動しているように見えたので、苦笑することしか出来なかった。
 そんな店主に構わずに、マキウスはジャラジャラと音が聞こえてくる重そうな革袋を懐から取り出すと、カウンターを滑らせて店主に渡していた。

「これが加工代になります。確認をお願いします」

 マキウスが渡してきた革袋から硬貨を出すと、店主は数え出した。
 モニカにはまだこの国の物価がわからないので、今回の加工代が、相場より高いのか低いのか何とも言えないが、革袋の中には金貨らしき硬貨が数十枚と、銀貨と銅貨がその倍の枚数入っていたようだった。
 硬貨を数えていた店主は、飛び上がらんばかりに驚いた。

「おいおい! こいつはいくらなんでも多すぎだろ! こんなには受け取れないぜ」

「あんた、何かしたのか?」と、聞かれたマキウスは首を振っていた。

「姉……。ブーゲンビリア侯爵家から預かってきたままです。
 あちらから聞いた話では、明確な代金を提示されなかったのと、難しいデザインを注文して時間をかけさせたことに対するお詫びも入れて、多く用意したとのことでした」
「そんなら多い分、多少ネコババしてもよかったのによ。騎士サマは高潔なんだな」
「それは、まあ……。騎士ですので」

 マキウスは澄ました顔で返していたが、モニカにだけ聞こえるくらいの小声で呟いたのだった。
 
「盗もうものなら、私が姉上にどんな目に遭わされることか……」
「……マキウス様も、大変ですね」

 だんだん、この姉弟のパワーバランスが分かってきたような気がした。
 青い顔になったマキウスに、モニカは同情したのだった。
 
「恐らく、今後もこちらと良い関係を結びたい、という侯爵家の意図もあるのでしょう」
「そいつは嬉しいが……。侯爵家なら、もっといい加工職人を知っているだろうに。こんな場末の加工屋に来なくともよ」

 店主がぶつぶつ呟きながら革袋に金を戻している間、モニカはこっそりマキウスに呼ばれて、店の端に移動したのだった。

「モニカ。お待たせしました。こちらが、貴女の魔法石です。受け取ってくれますね?」
「はい!」

 モニカは顔を綻ばせると、即答したのだった。

「手を貸して下さい」

 利き手じゃない方がいいと言われ、モニカは利き手と反対側の左手を差し出す。
 すると、マキウスは店主から受け取った布包みを開いて中身を取り上げると、丁寧にモニカの左腕を掴んだ。

「愛しい人。どうかこちらを受け取って下さい」

 そうして、マキウスはモニカの左腕に。青色の魔法石がはまった銀色のブレスレットをはめてくれたのだった。