「子供が、というよりは、自分より小さき者たちを、守らなければならない愛おしい者たちと思っているのかもしれません」

「それに」とマキウスは目を逸らした。

「私が子供の頃は、姉上やペルラ、アマンテとアガタの姉妹に頼ってばかりいました。……今度は私が頼られたいんです」

 先程、マキウスは、子供の頃は泣いてばかりいたと話していた。義姉(あね)のヴィオーラに守られてばかりいたとも。
 きっと、地方に移り住んでから、マキウスなりに考えることがあったのだろう。
 頼られたいと、強くなりたいと、思うきっかけがあったのだろう。

(いつか教えてくれるかな……)

 恥ずかしそうに頬を染めるマキウスの姿に、モニカは笑ったのだった。

「私はずっと頼りにしていますよ。 マキウス様のことを」
「……その割に、ずっと笑っているのは何故ですか?」
「だって、まるで自分より歳下の子供が、自分を頼って欲しいって言っているみたいで可愛いくて……。でも、マキウス様のことは本当に頼りにしているので、安心して下さい」

 モニカがずっと笑っているからか、マキウスはムッとして不機嫌になったようだった。
 顔を赤面させると、「それで」と話題を変えたのだった。

「そういう貴女には、ご兄弟はいるんですか?」
「はい。『私』には、弟と妹がいました」

 御國だった頃、下には歳の離れた弟妹がいた。
 二人とも生意気盛りで、いつも御國が結婚しないことに口出ししてきてーーでも、とても大切な家族だった。

「二人共、社会人にーー大人になったばかりなんです。元気にしているといいなあ……」

 もう会うことは叶わないだろう。
 それなら、せめて元気に過ごして、御國より長生きして欲しかった。
 そして、御國が出来なかった、結婚して、両親に孫を抱かせて、たくさん親孝行をして欲しい。
 願わくは、健康で、幸せな日々を過ごしてもらいたい。
 御國の様に、不慮の事故で命を落とすことなどないようにーー。

 遠い世界に住む弟妹を思い出して、涙が溢れそうになった。
 涙を堪えて俯いていると、マキウスが肩を抱いてくれた。

「すみません。辛いことを思い出させてしまいましたね」
「いえ。大丈夫です……。すみません。私の方こそ……」

 モニカはマキウスから離れると、目の前の加工屋に向き直った。

「さあ、早く受け取りに行きましょう! マキウス様がどんなデザインで注文されたのか楽しみなんです!」

 今日まで、マキウスは魔法石の加工をどんなデザインにしたのか教えてくれなかった。
 モニカが何度頼んでも、「完成してからのお楽しみです」と言われ、はぐらかされるようになってしまった。

 まだ心配そうな顔をするマキウスに、モニカはなんともないように告げると、扉を開けたのだった。