そうして、マキウスに連れられて、通りから外れた薄暗い路地を進むと、やがて一軒の家の前で立ち止まる。

「ここが魔法石の加工を依頼した店です」
「へぇ~。見た目は普通のお家みたいですね」

 店は赤茶色のレンガらしき造りの小振りの家であった。
 マキウスがドアノブを掴もうと手を伸ばしたのとほぼ同時に、内側から扉が開いた。
 モニカが目を丸くして驚いていると、中からは複数の小さな影が飛び出してきたのだった。
 
「じゃあな! じじい!」
「バイバ~イ! おじいさん!」

 中から出てきたのは、十にもならないような数人の小さな男の子たちだった。
 誰もが薄汚い格好をしており、靴を履いていない子供もいた。
 そんな子供たちにモニカが戸惑っていると、マキウスに腕を引かれて道を譲ったのだった。

「かってにしんでんじゃないぞ~!」
「おまえもはやくこいよ! おいていくぞ!」

 そうして、彼らはモニカたちに脇目もふらず、そのまま市場とは反対側に走り去って行ったのだった。

「みんな、まってよ~!」

 すると、他の男の子たちから遅れて、慌てながら店の中から出てきた男の子がいた。
 慌てていたからか、よく前を見ていなかった男の子は、モニカを庇うように扉近くにいたマキウスにぶつかってしまった。
 その衝撃で、男の子は尻餅をついたのだった。

「いたたたた……」
「大丈夫ですか?」

 すかさず、マキウスは片膝をつくと、男の子の身体を助け起こす。
 男の子は鼻を押さえながら、恐る恐るマキウスを見上げたのだった。

「だいじょうぶです……」
「次からは、よく前を見て下さい」
「ごめんなさい」

 男の子はマキウスに頭を下げると、そのまま去って行ったのだった。
 子供たちが走り去っていく姿を見ていたモニカだったが、小さく笑い声を上げてしまった。

「どうしましたか?」

 怪訝そうな顔をするマキウスに、「だって」と笑いながら話し出す。

「マキウス様って、子供に優しいですよね」
「そうですか?」
「はい! 今の子もちゃんと助け起こしましたし、子供がお好きなんですか?」

 以前、二人で婚姻届を提出しに行った日。
 マキウスはニコラをあやしながら、モニカを部屋に迎えに来ていた。
 今でこそよく笑ってくれるようになったが、その時のマキウスは滅多に見られない満面の笑みを浮かべていたのだった。

 その後、アマンテに聞いたところによると、マキウスはモニカが不在時ーーアマンテがニコラの面倒を見ている時に限って、たまにニコラに会いに来ては、抱き上げたり、笑わせたり、話しかけたりしているらしい。

 どうしてモニカがいる時には来ないのかと、アマンテがマキウスに聞いたところ、マキウス曰く、「モニカが見ている前では、恥ずかしいので」と顔を赤面させていたらしい。
 
 モニカの言葉にマキウスは考え込んでいた様子だったが、やがて「そうかもしれません」と肯定したのだった。