「そんなこともないと思いますが……でも、そんなマキウス様を守ってくれる人がいませんよね。そんなマキウス様は私が貴方を守ります」
「貴女は私に守られていればいいんです。可憐な貴女を守るのは、夫である私の役目。貴女に辛い役目はさせません」
「は、はあ……。ありがとうございます」

 モニカの返事に満足そうな顔をすると、マキウスは店と店の間にある細い路地に入って行った。
 大通りから外れるからか、この路地はさほど人の通りがなく、数人の子供たちが遊び、その横で女性たちが井戸端会議らしき談笑をしているだけであった。

「路地は歩き辛くなかったですか」
「ええ。人通りが多くて少しだけ……」

 久々の人混みにすっかり疲れてしまった。
 建物の壁を背にして息を整えるモニカを気遣う様に、マキウスは笑みを浮かべた。

「市場を通らない道もありましたが、貴女にはこの賑わいを知って欲しかったんです。
 それと、刺激を欲している貴女の為になればと思ったので」
「覚えていてくれたんですね……! ありがとうございます。嬉しいです」
「何か欲しいものがあれば、帰り掛けに買いましょう。勿論、人混みに抵抗があれば、無理に買い物をする必要もありません」
「ありがとうございます。私は大丈夫なので、時間があれば、是非買い物したいです」

 そっと微笑んだマキウスを見ていると、モニカの胸が小さく跳ねた。
 いつになく、マキウスが弾んだような顔をしているのは気のせいだろうか。
 そんな夫の楽しそうな顔を見ていたら、疲れが消えていくようであった。

「人通りが多くて大変ですが、この辺りは男爵家の屋敷があった街やその周辺と似ているんです。空気もよく似ていて、貴族街より落ち着きます」

 地方に住んでいた頃を懐古しているのか、遠い顔をして大通りを眺めるマキウスの袖を掴む。
 それに気づいたマキウスは、「モニカ?」と不思議そうな顔したのだった。

「そんなマキウス様が、どんなところで育ったのか気になります。いつか連れて行って下さいね」
「ええ。必ず」

 マキウスは笑みを浮かべると、大きく頷いたのだった。