翌日、モニカたちは馬車に揺られて、王都の中心部にやってきた。

 今回はマキウスからの希望で、華美ではない、なるべく質素な服装を着て欲しいとのことで、ティカ曰く、庶民が着るような、いつも以上にシンプルなデザインの薄紫色のドレスと、踵の低い紫色の靴を用意したとのことだった。
 更に絹の様な金の髪を頭の上で一つにまとめてもらい、庶民風の化粧まで施してもらった。

 モニカには貴族と庶民の服装や化粧の違いがわからなかったが、これなら庶民によくいる若奥様にしか見えないと、全て用意してくれたティカからお墨付きをもらったのだった。

 また装飾品の類も身につけないで欲しいとのことだったので、先日買ってもらったペリドットのネックレスは、外から見えないように服の下に忍ばせ、それ以外の装飾品は何も身につけなかった。

「着きましたよ。モニカ」

 御者の手で馬車の扉が開けられると、マキウスはさっと降り立ち、モニカに手を貸してくれた。
 今日のマキウスはモニカと同じ様に質素な装いであった。白いシャツも、黒いズボンも、いつもと同じ格好ながら、生地が違うのか、あまり高級感を感じなかった。
 また、屋敷から乗って来た馬車もいつもとは違い、高級感のある装飾はなく、下町に住む住民や、貴族街から使いで来た使用人が乗るような街の乗合馬車とよく似た外装であった。

「ありがとうございます」

 すっかり慣れたマキウスのエスコートにモニカは手を預けると、馬車から降りたのだった。

「ここが、王都の中心部ですか?」
「ええ。主に市場側になります」

 二人が降り立ったのは、繁華街と呼ぶに等しい市場の中心部にある石畳みの広場だった。
 モニカとよく似た格好をした女性を始め、ニコラくらいの子供を連れた母子や、仕事の途中と思しき郵便配達の青年などが行き交っていたのであった。
 馬車の中でマキウスがしてくれた説明によると、地図上では、市場は大天使像と騎士団の本拠地である城の間にあるらしい。
 モニカたちが住んでいる貴族街は騎士団の本拠地側にあるとのことだった。
 屋敷から騎士団の本拠地である城が見えるのも、城近くに住んでいるからという理由らしい。

「少し歩きますが、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ちゃんと歩きやすい靴を履いてきました」

 モニカは履いていた踵の低い靴をマキウスに見せる。この踵の低い靴もマキウスが指定してきたものだ。
 今日は前回の騎士団の本拠地である城に行った時より歩くので、靴擦れや歩き疲れない靴を履いてきて欲しいとのことだった。
 それを聞いたティカが用意してくれたのが、この靴であった。
 モニカが示した靴を見たマキウスは満足そうに頷いたのだった。

「その靴なら、大丈夫そうですね。歩き疲れたら言って下さい」
「はい!」

 マキウスが伸ばした腕を、モニカは掴んだ。
 さすがに腕を組んで歩くのはまだ照れ臭いが、それはマキウスも同じ様で、マキウスの腕を掴んで、モニカが身体を寄せた時に、びくりと身体を揺らした様だった。
 それを小さく笑うと、マキウスはバツが悪い様に目を逸らしたのだった。

 そうして、モニカはマキウスと連れ立って、市場の中に入っていたのだった。