「モニカもすっかりハージェント男爵夫人らしくなりました。頼もしいことです。
 屋敷の者たちと打ち解けてきましたし、これなら、今後は屋敷の管理をお任せ出来そうです」

 貴族の妻の役割の一つに、屋敷内の管理というのがある。
 帳簿の管理や子供たちの教育が主だが、その中に使用人やメイドの管理も含まれている。

 使用人やメイドの雇用や仕事の管理は、使用人やメイドの長である家令や執事、メイド長が担当している。
 そんな彼らと共に貴族の妻も、仕事で不在にしがちな夫の代わりに屋敷を管理する。
 夫が仕事で数日間不在にする時や、夫の身に何かあった時は、夫の代わりに妻が使用人たちに指示を出すことになる。

 現在はマキウスが屋敷内の管理をしているが、本来はマキウスの妻であるモニカの仕事であった。
 モニカが病み上がりだったことや、これまでの諸々の事情からマキウスが行っていたが、そろそろモニカが引き継いでもいい頃合いであった。

「そんなことはありません。皆さんが優しいからですよ!」

 モニカが顔を赤く染めながらはにかむと、マキウスは小さく微笑んだ。

「謙遜しないで下さい。その魔法石ですが、姉上から、代わりに引き取りに行って欲しいと、伝言を言付かりました」
「お姉様が? どうしたのでしょうか?」

 ヴィオーラによると、明日の休暇の際に、工房まで取りに行く予定だったが、急な来客があるそうで、出掛けられなくなってしまったらしい。
 そこで、代わりにマキウスに取りに行って欲しいとのことだった。

「夕食後に姉上の使いの者が屋敷にやって来て、加工の代金を預かり、職人がいる工房の場所を聞きました。よければ、一緒に行きませんか?」

 マキウスによると、恥ずかしながら、魔法石の加工に必要な費用を用意出来なかったらしい。
 それを実姉のヴィオーラに相談したところ、大切な弟と義妹《いもうと》の為にと、加工に必要な費用を全額用意してくれたとのことだった。

「私も一緒に行っていいんですか!?」

 モニカが目を輝かせると、マキウスは頷いた。

「当然です。婚姻届を提出しに行った際は、王都の中心部を案内しきれませんでした。
 なので、今回は魔法石を引き取りに行きながら、案内しますよ」
「夫婦になってから、初めてのデートですね! 楽しみです!」

 モニカの言葉に、「そういえば」と、マキウスも気づいたようだった。

「言われてみれば、そうですね。それにしても、随分と喜んでいますね。王都が気に入りましたか?」
「それもありますが、やっぱり子育てをしていると屋敷に籠りがちになってしまうので、だんだん気持ちが沈んでくるんです。気分転換も兼ねて、たまには刺激が欲しくて……」

 モニカが最後に屋敷の敷地内から出たのは、マキウスと婚姻届を提出しに出掛けた時だった。
 屋敷内の庭はたまに散歩をしていたが、屋敷の敷地から外には出ていなかった。