「モニカ。お待たせしてすみません」

 モニカがマキウスと同じ寝室を使うようになってから、二週間が経った。
 最初は緊張していたマキウスとの同衾にも、すっかり慣れた。
 今朝は爆睡して、自らマキウスに抱きついてしまうくらい、緊張感を無くしていた。
 あまりの恥ずかしさに、今朝の見送り時は、マキウスの顔を見られなかったくらいである。

 けれども、モニカたちを起こしに来たティカによると、ティカに起こされたマキウスは、これまで見たことないくらい赤面して、熟睡しているモニカを無理矢理起こすことも出来ず、ただ狼狽していただけらしい。
「旦那様の珍しい姿が見られました」と教えられて、少しだけ気持ちが晴れたのだった。

「待たせてしまいましたね。すみません」
「いいえ。私は大丈夫ですよ」

 モニカはソファーに座って、子供向けの絵本を読んでいた。
 近々、ニコラに読み聞かせようと、マキウスに頼んで購入してもらった本だった。
 マキウスはソファーにやってくると、モニカの隣に座ったのだった。

「最近、お仕事が忙しそうですよね……。お身体は大丈夫ですか?」

 絵本を閉じながら、心配そうに傍らのマキウスを見つめた。

「ええ。大丈夫です。ご心配をおかけして、すみません」
「いいえ。目が覚めたばかりの全く部屋に来てくれなかった時に比べたら、まだ良い方です」
「あの時は……。すみませんでした」

 この世界に来てすぐの頃、部屋で療養しているモニカの元に、マキウスは全く来てくれなかった。
 事情を知った今となってはさほど気にしていないが、あの時はかなり心細い思いをしたものだった。
 それに比べたら、毎晩、モニカに顔を見せて、安心させてくれる今の方が充分良かった。

「冗談です。私も、もう気にしていません」
「そうですか……。それは安心しました。それから、先程、姉上から連絡が来ました。魔法石の加工がようやく完了したそうです」
「あっ! ようやく、終わったんですね!」

 マキウスはヴィオーラ経由で専用の職人に、モニカが持つ魔法石の指輪の加工をお願いしていた。
 どうやら、こちらから依頼した魔法石のデザインが複雑だったようで、当初、二、三日で出来るはずだった加工が、二週間に伸びていたのだった。

「ええ。随分と不便な思いをさせてしまいました」
「そこまで、不便ではなかったです。屋敷の皆さんに手伝ってもらえたので」

 魔法石が無いことで、モニカは屋敷内の使用に一部の制限がかかってしまった。
 鍵付きの部屋への出入りは勿論、庭に出るのも、沐浴の際の湯を温め直すのも、魔法石が必要だった。
 魔法石が無いことで、モニカは改めて、この屋敷がーー引いてはこの国が、いかに魔力に頼った生活を送っているのかを実感したのだった。
 魔法石が無いことで、苦労するかと思ったが、ティカやエクレアを始めとする、メイドや使用人たちが、モニカを手助けしてくれたので、さほど不便は感じなかった。

 モニカから事情を聞いたマキウスは、安心したように肩の力を抜いたようだった。