何か言わなければならないと、モニカは焦っていた。
　けれども、それは言葉にならないまま、モニカの為にマキウスは身を引こうとした。
　マキウスは自ら歩み寄ろうとしてくれた。
　モニカを知りたいと、自分を知って欲しいと言ってくれた。

　じゃあ、自分は。
　自分はこのままでいいのだろうか。
　マキウスに頼ってばかりでいいのだろうかーー守られてばかりでいいのだろうか。

　そう思ったら、体が勝手に動いていた。
　背伸びをしてマキウスの襟元を引っ張ると、自ら口づけていたのだった。

　マキウスの唇に向かって口づけたつもりだったが、モニカの背が低いからか、唇の端に口づける形となった。
　二人はしばらくそのままでいたが、やがてモニカが襟元を離すと、マキウスはそっと顔を離したのだった。
　
「モ、モニカ！？ 一体、何を！？」

　マキウスは何度も瞬きをすると、モニカをじっと見つめた。

「マキウス様ばかりズルいです！ 私もマキウス様を信じているのに……マキウス様を幸せにしたいと思っているのに……。
　それなのに、まるで自分ばかり、一方的に、守るとか、幸せにするとか……！」

　耳まで赤くなった両頬を手で押さえながら、マキウスを見つめた。

「私もマキウス様を守りたいですし、マキウス様のことを幸せにしたいです……！」

　マキウスは、ハッと息を飲んだようだった。
　モニカは両掌を握りしめると、目尻に涙を溜めながら、マキウスに向かって叫んだ。

「守られてばかりは嫌なんです。だって、幸せは、二人で作っていくものだから……！ 夫婦なら尚更！」
　
　モニカ自身も、どうして自分からマキウスに向かって口づけたのかわからなかった。
　こんなこと、御國の頃だったら絶対にやらなかった。
　この世界の女性も、自らこんなことはしないだろう。
　その証拠に、目の前のマキウスは呆然としていた。
　
「モニカ……」
「マキウス様は子供の頃から、大変な思いをされてきました。だから……。そろそろ幸せになってもいいはずなんです……！ いえ、幸せになりましょう！ 私が貴方を幸せにします！」
　
　マキウスがこれまでどういう人生を送ってきたか、モニカはマキウスやヴィオーラから聞いて知っている。
　だからこそ、モニカはマキウスにも幸せになって欲しいのだった。
　
　この感情は、きっとーー。