「同じ部屋って……。この部屋ですか?」
「そうです」
寝室のダブルベッドを指したモニカに、マキウスは頷いたのだった。
「実は、以前よりアマンテから相談を受けていたんです。ニコラも育ってきて、夜の度にアマンテの部屋に連れて行くのも大変になってきたと」
ニコラも順調に成長しており、体重も徐々に増えてきていた。
この身体が華奢なのもあるが、モニカもニコラを抱くのに、力が必要になってきたくらいであった。
ニコラの乳母であるアマンテの部屋は、モニカの部屋から少し離れたところにあり、以前からニコラを抱いて部屋まで連れて行くアマンテが大変に思えていた。
何度か自分もニコラを連れて行くのを手伝うかと、アマンテに声を掛けたが、アマンテから「これは乳母としての仕事なので」と固辞されていた。
それもあって、アマンテが夜の度にニコラを連れて行くのが大変だという話も、分かる気がした。
「せめて、夜の間だけでも、モニカの部屋をアマンテに貸していただけませんか?
その間、モニカはこの部屋で寝て下さい」
すると、マキウスは自信がないのか、目線を落としたのだった。
「私が嫌というのならば、私が別の部屋で寝ますが……」
「嫌だなんて……。そんなことはありません!」
モニカの言葉に、マキウスは顔を上げた。
大きく見開いたアメシストの様な目に見つめられていると、だんだん顔が赤面していくのを感じた。
「あ……でも、あまり寝相良くないですし。もしかしたら、マキウス様の邪魔になって、ゆっくり休めないかもしれません……」
御國だった頃、お世辞にもモニカの寝相は良い方ではなかった。
今はどうかはわからないが、もしかすると、寝ぼけてマキウスに粗相をしてしまうかもしれない。
そうなったら、面目ない。
すると、マキウスは「そんなことですか……」と呟いて、安心したように小さく息を吐いたのだった。
「その時は、私がなんとかします。だから、貴女は気にせずに休んで下さい」
「そ、そうですか……」
モニカはホッとすると、バルコニーから見える夜景に視線を移す。
この部屋からも、騎士団の本拠地がある城は明るく照らされ、その後ろに小さく見える王族が住むという城も光の中に浮かび上っていたのだった。
「それにしても」
マキウスも同じ様に、モニカの隣でバルコニーから夜景を眺めながら口を開いた。
「まだまだ、知らないことだらけです。世界も、貴女のことも……。
世界が違えば文化や思想が違う。それを私はすっかり失念していました」
おそらく、一緒に見たモニカの夢について言っているのだろう。
それに気づいたモニカは、「私もです」と答える。
「私もまだまだこの世界のことや魔法のこと、育児のこと、マキウス様のことなど……何も知りません」
モニカが傍らを見上げると、視線を感じたのか、端麗な容姿をしたマキウスが振り向いた。
「でも、知らないなら、これから知っていけばいい」
「マキウス様……?」
間近で見たマキウスのアメシストの様な紫色の瞳は、二人の頭上で輝く、人工の星空を映しているように、キラキラと輝いているように見えた。
「私たちの人生はまだまだ続くんです。
知らないなら、知っていけばいい。世界のこと、お互いのこと」
そうして、マキウスはその場に跪くと、バルコニーから手を離したモニカの右手を取った。
咄嗟のことで引っ込めることも出来ず、モニカはマキウスの灰色の頭を見下ろすことしか出来なかった。
「私は貴女のことも、もっと知りたいと思っています。貴女がどんなところで生まれ育ち、何を学び、何を見聞きして、何を考えてきたのかを。
些細なことでも構いません。私に教えて下さい」
モニカがじっと見つめていると、マキウスはモニカの手を顔に近づけた。
「貴女が貴女自身について教えてくれるなら、私も私自身について教えます。
そうして互いを知って、互いを好きになりましょう。
願わくは、貴女と真に結ばれた夫婦となりたい。
国や立場や子供に関係なく、愛し合える関係となりたい。
その為なら、私は貴女に相応しい男になることを、ここに誓います」
そうして、マキウスはモニカの手の甲に口づけを落としたのだった。
「そうです」
寝室のダブルベッドを指したモニカに、マキウスは頷いたのだった。
「実は、以前よりアマンテから相談を受けていたんです。ニコラも育ってきて、夜の度にアマンテの部屋に連れて行くのも大変になってきたと」
ニコラも順調に成長しており、体重も徐々に増えてきていた。
この身体が華奢なのもあるが、モニカもニコラを抱くのに、力が必要になってきたくらいであった。
ニコラの乳母であるアマンテの部屋は、モニカの部屋から少し離れたところにあり、以前からニコラを抱いて部屋まで連れて行くアマンテが大変に思えていた。
何度か自分もニコラを連れて行くのを手伝うかと、アマンテに声を掛けたが、アマンテから「これは乳母としての仕事なので」と固辞されていた。
それもあって、アマンテが夜の度にニコラを連れて行くのが大変だという話も、分かる気がした。
「せめて、夜の間だけでも、モニカの部屋をアマンテに貸していただけませんか?
その間、モニカはこの部屋で寝て下さい」
すると、マキウスは自信がないのか、目線を落としたのだった。
「私が嫌というのならば、私が別の部屋で寝ますが……」
「嫌だなんて……。そんなことはありません!」
モニカの言葉に、マキウスは顔を上げた。
大きく見開いたアメシストの様な目に見つめられていると、だんだん顔が赤面していくのを感じた。
「あ……でも、あまり寝相良くないですし。もしかしたら、マキウス様の邪魔になって、ゆっくり休めないかもしれません……」
御國だった頃、お世辞にもモニカの寝相は良い方ではなかった。
今はどうかはわからないが、もしかすると、寝ぼけてマキウスに粗相をしてしまうかもしれない。
そうなったら、面目ない。
すると、マキウスは「そんなことですか……」と呟いて、安心したように小さく息を吐いたのだった。
「その時は、私がなんとかします。だから、貴女は気にせずに休んで下さい」
「そ、そうですか……」
モニカはホッとすると、バルコニーから見える夜景に視線を移す。
この部屋からも、騎士団の本拠地がある城は明るく照らされ、その後ろに小さく見える王族が住むという城も光の中に浮かび上っていたのだった。
「それにしても」
マキウスも同じ様に、モニカの隣でバルコニーから夜景を眺めながら口を開いた。
「まだまだ、知らないことだらけです。世界も、貴女のことも……。
世界が違えば文化や思想が違う。それを私はすっかり失念していました」
おそらく、一緒に見たモニカの夢について言っているのだろう。
それに気づいたモニカは、「私もです」と答える。
「私もまだまだこの世界のことや魔法のこと、育児のこと、マキウス様のことなど……何も知りません」
モニカが傍らを見上げると、視線を感じたのか、端麗な容姿をしたマキウスが振り向いた。
「でも、知らないなら、これから知っていけばいい」
「マキウス様……?」
間近で見たマキウスのアメシストの様な紫色の瞳は、二人の頭上で輝く、人工の星空を映しているように、キラキラと輝いているように見えた。
「私たちの人生はまだまだ続くんです。
知らないなら、知っていけばいい。世界のこと、お互いのこと」
そうして、マキウスはその場に跪くと、バルコニーから手を離したモニカの右手を取った。
咄嗟のことで引っ込めることも出来ず、モニカはマキウスの灰色の頭を見下ろすことしか出来なかった。
「私は貴女のことも、もっと知りたいと思っています。貴女がどんなところで生まれ育ち、何を学び、何を見聞きして、何を考えてきたのかを。
些細なことでも構いません。私に教えて下さい」
モニカがじっと見つめていると、マキウスはモニカの手を顔に近づけた。
「貴女が貴女自身について教えてくれるなら、私も私自身について教えます。
そうして互いを知って、互いを好きになりましょう。
願わくは、貴女と真に結ばれた夫婦となりたい。
国や立場や子供に関係なく、愛し合える関係となりたい。
その為なら、私は貴女に相応しい男になることを、ここに誓います」
そうして、マキウスはモニカの手の甲に口づけを落としたのだった。