「失礼します。モニカです。入ってもいいですか?」

 数日後の夜、モニカはマキウスを訪ねて寝室へとやって来た。

「モニカ、どうしましたか?」

 モニカが扉を開けた時、寝間着姿のマキウスはソファーに腰掛けて、事典の様な分厚い本を読んでいるところだった。
 マキウスはアメシストに様な瞳を大きく見開くと、本を閉じてテーブルに置いた。
 ソファーから立ち上がると、出迎えてくれたのだった。

「今日は魔法石が無いので、魔力の補充は必要ありませんが……?」
「そうなんですが……。その……なんだか、落ちつかなくて……」

 洗ったばかりの長めの前髪で俯きながら話すと、マキウスは口元を緩めたようだった。

「せっかくなので、部屋に入って下さい。今、窓を閉めますので」

 マキウスの言葉に顔を上げたモニカは、そこでバルコニーに続く窓が開いていることに気づいた。

「それなら、バルコニーでお話ししませんか?」
「構いませんが、湯冷めをしては風邪を引きますよ」

 バルコニーを指しながら提案したモニカを、マキウスは心配そうに見つめてくる。

「少しだけ……少しだけです。話し終わったら、すぐに部屋に戻ります」
「わかりました。少しだけ話しましょう」

 そうして、モニカはマキウスと並んでバルコニーに向かったのだった。

 二人がバルコニーに出ると、ひんやりとした冷たい夜風が吹いていた。
 ここに来る前、湯浴みをして火照っていた身体には、丁度良いくらいであった。
 モニカが肩からずり落ちそうになったガウンを押さえていると、マキウスが掛け直してくれたのだった。

「ありがとうございます」

 モニカが礼を述べると、マキウスはそっと微笑んだ。

「ところで、ニコラはどうしましたか? 一人にして大丈夫ですか?」
「さっき、アマンテさんに預けてきました。今夜はそのまま預かってくれるそうです」

 バルコニーの手すりを掴むと、何も身につけていない手が視界に入った。

 マキウスの言う通り、モニカは魔法石の指輪をしていなかった。
 寝室で一緒に寝た日、マキウスが仕事に行く際に魔法石の指輪を渡したのだった。

 マキウスによると、姉のヴィオーラが魔法石の加工を行う職人に心当たりがあるらしく、以前からヴィオーラを通じて、加工の依頼をしていたらしい。
 ようやく、職人と予算や日程について話しがついたとのことで、マキウスはヴィオーラを通じて、魔法石の加工をお願いしたとのことだった。