次の日から御國は少しずつ、歩く練習を始めた。
 最初はペルラに付き添われて、屋敷の廊下を壁伝いに歩くところから始めた。
 それに慣れてくると、今度は、先日、部屋の掃除してくれたメイド――花瓶を倒しそうになっていた。のティカが手伝ってくれたのだった。

「この調子なら、もうすぐ外出も出来そうですね」

 ティカに支えられて廊下を歩いていた御國は、ティカの嬉しそうな言葉に笑顔で頷いた。
 最初は恐る恐る御國の練習に付き合ってくれていたティカだったが、御國が少しずつ話しかけていくと、年齢が近いこともあって、だんだんと警戒心を解いてくれたのだった。
 すると、ティカは屋敷や使用人達について、わかる範囲内で教えてくれるようになった。

 ティカによると、この屋敷にはメイドはペルラとティカを合わせた数人しかおらず、人手が欲しくなった時は、臨時で人を雇うらしい。

「それじゃあ、屋敷の管理は大変じゃないですか?」
「そんなことはありません。この屋敷は旦那様の様な、貴族が賜っている屋敷の中では小さい方なんです」
「えっ!? この大きさでそうなんですか!?」

 御國が屋敷内を歩くようになって気づいたのは、この屋敷は御國が住んでいた実家の何倍も大きいということだった。
 廊下もどこまでも長く、歩く練習をするのに最適の長さであった。
 屋敷の庭も広く、窓から見る限りでは、学校の校庭ぐらいの大きさがあったのだった。

「はい。この屋敷は旦那様が爵位を与えられた際に賜ったんです。それまで、旦那様は地方のもっと小さな屋敷に住んでいたそうです」

「といっても、詳しくは私も存じておりません」とティカは付け加えたのだった。

「そ、そうだったんですか……」
「旦那様はとても優しい方です。私の様な下々のことも気にかけてくださって。……私が前に働いていた屋敷はひどい環境だったので」

 頭の上の耳が垂れるのではないかというくらい、ティカは悲しげに俯いた。

「そうだったんですね……」
「すみません。こんな話をするつもりじゃなかったんです。前よりモニカ様が話しやすくて、つい話してしまいました……」
「気にしないで下さい。私もティカさんからお話しを聞けて嬉しいです」

 御國の言葉にティカは頬を赤く染めた。

「そろそろ、お部屋に戻りましょう。ニコラ様も目を覚ましているかもしれません」
「そうですね……」

 御國はティカに支えられて、ゆっくりと部屋に戻ったのだった。