果たして自分は久宝さんにとって近しい人の範疇に入るのだろうか、とちょっと疑問に思
わないでもないけれど。お見舞いを受け付けているのならぜひ行きたいと思って、即答して
しまった。

 信号が変わって車を出発させながら、四谷さんは前を向いたまま言った。

「でもまあ……少し覚悟しておいた方がいいぞ」

 俺よりも十歳年上の四谷さんは、当然世の中のことを俺より深く知っているわけであって。
きっと彼はこの時点でわかっていたのだと思う。久宝さんが近しい人にだけ会うようになっ
た意味を。


 翌週のオフの日は、高く澄み渡った青空が秋を感じさせるような空気の日だった。

 俺は買ったばかりのステーションワゴンのラゲッジスペースにドルーを乗せ、自分は運転
席に乗り込んだ。免許を取ってから早六年、初めて買った自分の車だ。
 一応免許は持っていたものの、最寄り駅の路線的に不自由を感じたことがなかったので、
車を買おうと思ったことは今まで一度もなかった。キャンプとか車が必要なときにはレンタ
カーで十分だったし。

 けどドルーと一緒に暮らすようになってからは、車がないことの不便さに何度もぶつかっ
た。キャリーバッグに入らないドルーは電車での移動ができない、これは致命的だ。人間に
なれば電車には乗れるけど、犬として連れていきたい場所に人間として連れていって現地で
犬に戻る……というのも、面倒だし人に見られたらという危うさもある。
 
 まあそんな諸々の事情から、俺は生まれて初めてマイカーを購入することを決めた。ドル
ーが快適に乗れることを考えて選んだのは、天井が高くラゲッジスペースが広いステーショ
ンワゴン。いわゆるファミリー向けの車であることを考えると、ドルーとふたりきりで乗る
のはちょっと寂しい気もするけれど。

 とにもかくにも。先月に購入してからドルーと移動するときの不便さは解消された。俺と
一緒に行動できる範囲が広がったドルーは大喜びだ。おかげで最近は休みのたびにドライブ
をして、サービスエリアや大型公園にあるドッグランへ行くのが恒例になってきている。

 そんなわけで今日も俺は、久宝さんのお見舞いに行ったあとドライブへ連れていくために
車にドルーを同乗させた。

「カナタ、今日はどこまで行く? 大きい公園? 海? サービスエリア?」