志希は、思いやりのある優しい子だ。母親のことが好きだったという言葉にも、やはり嘘はなかったと思う。だからこそ、母親との間にあった何かに対して、志希は必要以上に責任を感じてしまっているのではないだろうか。

 荒熊さんは、先日の志希の様子を、そのように推理していた。

 もしかしたら今の志希は、表面上こそ穏やかだが、母を亡くしたことで心の中はひどく危うい状態になっているのではないか……。そんな気がしてならないのだ。

 と、そこで荒熊さんは、はたと気が付いた。悩みを抱えた人間が助けを求めてくるのを待つだけだった自分が、人間である志希のことで悩んでいるという事実に。

「何だかもう、おかしなこともあるもんだね」

 思わず笑ってしまう。どうやら自分は、随分と志希の“お人好し”に感化されてしまったようだ。少なくとも、自分から“助けてあげたい”と思う程度には……。

 志希があらいぐまにやって来て、たった一か月。神様として生きてきた五十年以上と比べれば、一瞬のような時間しか経っていない。それなのに、自分はこんなにも大きく変わってしまった。
 その事実に、衝撃を受ける。
 ただ……衝撃は受けても、それを不快であるとは感じない。

「本当に、志希ちゃんはおもしろい子だよね」

 神様の心内をあっさり変えてしまった女の子に、賞賛の言葉を贈る。もっとも、本人には聞こえていないが。
 そして、だからこそ彼女が苦しんでいるならば、助けてあげたいと思う。縁結びの神様として、自分と結ばれたこの縁を大事にしたいと思うから。

 と、その時だ。
 入り口のドアが開き、ひとりのお客さんが入ってきた。