よくやった、と褒めてくる荒熊さんに、志希は困ったような笑顔で首を振る。
 実際に志希がやったことと言えば、荒熊さんに頼んで霊力を提供しただけ。褒められるようなことをしたという実感は、志希にはなかった。

「謙遜することはないよ。僕は君が願ってくれたから、神様として動けた。その結果、あの親子はこんなにも幸せな形で救われた。これは誇っていいことだよ。神様が保証する」

「やめてくださいよ、荒熊さん。恥ずかしいです」

 それでも、荒熊さんは志希を褒めるのをやめない。さすがの志希も、ここまで褒められると困る以上に照れてしまった。

 しかし――。

「いやいや、本当のことだから。きっと志希ちゃんのご両親も天国で思っているよ。『自慢の娘だ』ってさ」

 両親の話が荒熊さんの口から出た瞬間、志希の表情が唐突に変わった。ハッと目を見開いたかと思うと、思いつめたように唇を噛んだ。
 ただ、荒熊さんは気が付いていないようで、「本当に、ご両親に君の活躍を教えてあげたいね」と腕を組んだままうんうんと頷いている。

「いやはや、志希ちゃんみたいな“いい子”を雇うことができて、僕は本当に幸せだよ。十八そこそこでここまでできた娘さんは、なかなか見つからな――」

「やめてください!!」

 荒熊さんの言葉を遮るように、志希が叫ぶ。
 志希は、これ以上聞いていられないといったように体を掻き抱き、震えていた。

「志希ちゃん……?」

「私は、お母さんから褒められていいような人間じゃないんです。“いい子”だなんて、もってのほか。そんな風に言ってもらう資格、私にはないんです……」

 唖然とした様子の荒熊さんに、志希は箍が外れたように言い募る。荒熊さんの言葉がきっかけとなり、志希の中で抑え込まれていたものが、表へと姿を現す。

「だって私は……お母さんが死んでしまうまで、ずっとお母さんに嘘をつき続けていたんですから……」

 そして最後にそう絞り出すように言って、志希は力なく項垂れた。