明日香と紗代が和解してから、数日が経った。

「おっかさん、あれから家で毎日落語の勉強だよ。ブランクを埋めようって必死さ。あたしもおっかさんの特訓に付き合って、ビシバシしごいてあげてるんだ! それとさ、聞いてよ。おっかさん、落語関連のものを捨てたんじゃなくて、じっちゃんの家に送っていたみたいなんだ。今度、おっかさんと一緒に取りに行くつもり!」

 そしてあらいぐまでは、今日も明日香の楽しそうな近況報告の声が響いている。
 荒熊さんは明日香があらいぐまに来なくなることを心配していたが、どっこいそんなことはなかった。母とのあれこれを志希たちに話したいらしく、明日香は毎日足繁くあらいぐまにやってくる。

「お祖父さんの家ですか。それは楽しみですね」

「明日香ちゃん、落語会の開催はいつでもウェルカムだからね。お母さんにもよろしく言っといて」

 何はともあれ、明日香が笑顔であるのなら、志希と荒熊さんに文句はない。親子仲がすっかり修復されたことに安心した様子で、ふたりは明日香に相槌を打った。

「さてと! それじゃあ、あたしはそろそろ帰るね。今日はおっかさんが仕事から帰ってきたら、寄席に行くんだ!」

 そう言って、明日香はうれしそうな笑顔を見せる。つい一週間程前、『一緒に出掛けたりなんかしないだろうね。息が詰まるだけさ』なんて言っていたのが嘘のようだ。何だか見ている側まで幸せな気分になってくる。

「いってらっしゃい、明日香ちゃん」

「楽しんでおいで」

 志希たちが送り出すと、明日香は「うん!」と笑顔を弾けさせて帰っていった。
 明日香に向かって小さな手を振っていた荒熊さんは、店のドアが閉まると志希の方を向いた。

「今回は志希ちゃんのお手柄だったね。志希ちゃんが『お父さんと引き合わせよう』ってきっかけを作ったから、いろんな問題が解決して、ふたりが仲直りできた」

「私は別に……。アイデア自体は荒熊さんも思いついていたわけですし、一番頑張ったのは明日香ちゃんたちです」