* * *


 気が付けば、志希たちは全員、あらいぐまへ戻ってきていた。


「明日香ちゃん、紗代さん、お疲れ様でした」


「姐さん、今のは……」


「まあ、『ちょっと特別な夢』くらいに思っておいてください」


 呆然としたまま訊いてくる明日香に、志希はいたずらっぽく笑って答える。

 そして、明日香と同じく呆然としたままの紗代を見た。


「紗代さん、心の整理、つけられましたか?」


 尋ねられた紗代は、志希と荒熊さんを交互に見つめる。


「あなたたちは、本当に不思議な方々ですね。けど――おかげでこれ以上娘を悲しませずに済みそうです。ありがとうございます」


 憑き物が落ちたというか、吹っ切れた様子で紗代が志希たちに深く頭を下げる。彼女はそのまま、明日香に手を差し出した。


「帰りましょう、明日香。サークルに復帰の連絡をして、鈍った腕を磨き直して……。やることだらけだわ」


「うん!」


 明日香はパッと表情を輝かせ、紗代の手をうれしそうに握る。そして、志希たちに向かってブンブンと空いている方の手を振った。


「旦那、姐さん、ありがとう。またね!」


「この御礼は、またいずれ」


「そうですか? では、いつかうちで落語会でも!」


 昨晩の志希の発破が効いたのか、紗代の社交辞令に乗っかって荒熊さんが早速営業を始める。しかし、さすがに空気が読めていなさ過ぎるので、志希が笑顔でアライグマの店長を抱き上げ、その口をしっかり塞いだ。

 紗代はそんなふたりのやりとりをおかしそうに笑って見つめ、ひとつ頷いた。


「ええ、ぜひ。――では、また」