「二人とも、僕の夢を叶えてくれて、ありがとう。これで――思い残すことはなくなった。僕は“本の記憶”の一部でしかないけど、あの世の僕もきっとそう言うと思う」


 紗代と明日香の方へ視線を戻した大輔が、穏やかに言う。

 その言葉に、別れの時が来たと悟ったのだろう。明日香が、再会した時と同様に「おとっさん!」と大輔に抱き着いた。


「ずっと明日香の成長を見守っていたかったんだけどな……。ごめん、明日香。大きくなるまで一緒にいてやれなくて」


 大輔があやすよう抱きしめると、明日香はブンブンと首を振った。


「紗代さんも、本当にごめん。明日香のこと、頼むよ。それと――ずっと愛してます」


「ええ、私も」


 明日香を抱きしめたまま言う大輔に、紗代は涙を零しながら最高の笑顔を見せる。

 最愛のふたりに挨拶を済ませた大輔は、明日香を離し、三歩ほど下がった。同時に、世界が再び白い光で満ちていく。


「それじゃあ二人とも、これで本当にさよならだ」


 光の向こうから、大輔の声が聞こえてくる。その声はどんどん遠くなっていく、


「もう落語のことで喧嘩しちゃダメだよ。落語は、人を楽しませるためのものなんだからね」


 そして最後にそんな大輔の言葉が聞こえてきて、世界は白一色に染まった。