「なあ、明日香。おとっさん、実は昔からこっそり明日香の亭号を考えていたんだ。――だからさ、もしよかったらだけど……初高座のお祝い代わりにもらってくれないかな」


「本当!? ほしい! 聞かせて、おとっさん!」


 初高座に対する最高のご褒美に、明日香の目がこれでもかと輝く。

 そんな娘の期待を一身に受け、大輔はオホンと咳払いをして、亭号を告げた。


「お前の亭号は――『明日ノ家秋桜(こすもす)』だ」


「こすもす?」


「そう。明日香は秋の生まれで桜花の娘だから、秋の桜で『秋桜』。どうかな?」


 笑顔の中に緊張を滲ませて、大輔が問う。

 すると、明日香は腕を組んで「うーん……」と考えるような素振りをし――。


「うん、気に入った! ありがとう、おとっさん!」


 すぐに二カッと笑って、父からの最後のプレゼントを受け取った。

 娘に亭号を受け入れてもらえた大輔は、安心した様子でホッと一息。そして――彼は確認するように志希と荒熊さんの方を見る。

 大輔からの視線を受けた志希は、少し表情を硬くしてコクリと頷いた。明日香たちが、夢から覚める時間が来たのだ。