不意に大輔が、頬を掻きながらの惚気話を始めた。

 志希と明日香は、両手の掌を合わせた格好で大輔の方を見つめ、「おお!」と感嘆の声を上げている。恋バナが好きなお年頃なのだ。ちなみに、紗代の顔は真っ赤だ。


「そしたら、紗代さんと一緒に『寿限無』を練習することになって……。それから紗代さんと仲良くなっていくうちに、近付くための手段だった落語のこともどんどん好きになって……」


 大輔が、まっすぐにステージの上の紗代を見つめる。


「心の底から思うよ。紗代さんが落語女子で本当に良かったって。紗代さん、僕と出会ってくれて、ありがとう。落語と出会わせてくれて、ありがとう」


 大輔の恥ずかしいくらいまっすぐな気持ちが、ホールの中に反響していく。


「私も、あなたと出会えてよかった。私と一緒に落語をやってくれて、ありがとう」


 大輔の気持ちを受け止めた紗代も、同じく偽りない気持ちで返す。

 紗代から最高の言葉を返してもらった大輔は、続いて「明日香」と娘の名を呼ぶ。


「はじめて高座に上ったとは思えないくらい堂々としていた。さすが、紗代さんの血を引いているだけのことはある。僕も鼻が高いよ」


「えへへ。ありがと、おとっさん!」


 大輔が頭を撫でて褒めると、明日香はくすぐったそうに笑った。