明日香を加えた四人は、高座の上の紗代を讃えるように全力で拍手を送る。明日香の落語も最高だったが、紗代の落語も一年というブランクが嘘のように笑えるものだった。明日香と同じ、落語をやることを自分自身が一番楽しんでいる者にしかできない語りだ。


「大学時代のことを思い出したよ。ありがとう、紗代さん。最高だった」


 大輔が紗代を称賛する。ただ、それは大輔だけの思いではない。後半の賞賛は、ここにいる全員の気持ちを代弁していた。


「紗代さん、久しぶりに落語やってどうだった?」


「……楽しかった」


 大輔がゆっくりと穏やかに問うと、紗代はどこか悔しげに答えた。大輔に乗せられる形で落語をやり、結果として楽しんでしまったのが、まんまと策に嵌ってしまったみたいでむかつくのだろう。

 そんな妻に対して、大輔は「だと思った」と愉快そうに微笑む。


「だって、『寿限無』やっている時の紗代さん、すごく輝いていたしね。――それじゃあ、最後の質問にいこっか。落語やるの――まだ怖い?」


「さっきの質問に答えた後じゃあ、怖いなんて言えないじゃない」


 紗代が、「いじわる」と言いたげに唇を尖らせた。

 何だかそんな紗代がかわいらしくて、志希は思わず笑ってしまった。


「今だから明かすけど――実は僕、大学の入学式で紗代さんに一目惚れしてさ。紗代さんを追って落研に入ったんだよね」