「何ぃ!?  寿限無、寿限無、五劫の摺り切れ、海砂利水魚の水行末、雲行末、風来末、食う寝る所に住む所、薮ら柑子のぶら柑子、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の長助がまだ寝てるって? よぉし、俺が起こしてやろうじゃねえか。やい! 寿限無、寿限無、五劫の摺り切れ、海砂利水魚の水行末――」


 素っ頓狂な声を上げながら、紗代が大きな仕草で腕まくりをする。

 紗代の気難しい顔と儚げな顔しか知らない志希は、先程からずっと目を見張りっぱなしだ。


「どう、姐さん。びっくりした?」


 不意に斜め後ろから声を掛けられ、志希が驚き眼のまま振り返る。そこには、いつの間にこっちへ来たのか、高座の上の紗代をうれしそうに見つめる明日香がいた。


「あたしが滑稽噺をやっているのは、おっかさんの影響なんだよ。おっかさんみたいに人を驚かせて、笑わせたい。だからあたしは、滑稽噺を練習したんだ!」


 そう言って、明日香は誇らしげに胸を張った。


「――あんまり名前が長いから、夏休みになっちゃった……」


 そうこうしているうちに、紗代が寿限無を演じ終えた。