そうこうしている間に、テンションマックスで突き進んだ明日香の『時そば』がクライマックスを迎える。


「一、二、三、四、五、六、七、八……今何時でい。――へい、四つでい。――五、六、七……。――あらあら、余計に払ってしまいました。人間、悪いことは考えるもんじゃないですね」


 オチを付けた明日香が、姿勢を正す。


「おあとがよろしいようで」


 そして、明日香は口座から下りる時の定番文句を言って、ゆっくりと頭を下げた。

 志希は拍手喝采だ。隣では荒熊さんがなぜか感涙に溺れながら小さな手を叩き、そのさらに隣では大輔が同じく涙で瞳を輝かせながら大きな拍手をしていた。このふたり、意外と気が合うかもしれない。


 三人から万雷の拍手をもらった明日香は、顔を上げてにっこりと笑う。志希の隣で、父親とアライグマが胸を押さえて倒れた。明日香の笑顔に撃ち抜かれたらしい。それを見て、今度は明日香の方が声を上げて笑う。何ともグダグダな感じだが、まあそれも一興だろう。

 明日香は座布団をひっくり返し、今度こそ高座から下りて、舞台袖にはけていく。

 そして、入れ替わるように今度は着物姿の紗代が舞台に姿を現した。


「すごい……。きれい……」


 着物姿の紗代に、志希が感嘆の吐息を漏らす。着物を身に纏い、髪を結い上げた紗代は、正に和服美人だ。思わず見惚れてしまった。

 紗代は丁寧な所作で高座に上がり、座布団に座る。そして、ステージの下にいる大輔の方を見た。