しかし荒熊さんはわけがわからないといった顔をするばかりなので、志希は仕方ないなと苦笑しながら、教え含めるようにこう言った。


「いいですか、荒熊さん。そこは神様的な考え方を捨てましょう。あくまで店の経営者として考えるんです」


「ええと……どゆこと?」


「神様らしく明日香ちゃんが来るのをただ待つのではなく、経営者としてこちらから頼んで来てもらうんです。三顧の礼ですよ」


 にっこり笑って志希が言うと、荒熊さんの真ん丸な目が見開かれた。鱗でも落ちてきそうだ。


「せっかくですから、ちゃんとした落語会を開催するのもひとつの手かもしれませんね。明日香ちゃんと――できれば紗代さんにも出演してもらって。うまくいけば、店の目玉イベントが誕生するかもしれませんよ」


 今度は拳を握って力説する志希に、荒熊さんは湯飲みを持ったままきょとんとする。

 しかし、すぐに堪え切れなくなったのか、「あはは!」と笑い出した。


「確かに志希ちゃんの言う通りだ。それは、ビッグなビジネスチャンスだね」


 恐れ入ったと言わんばかりに、湯飲みをテーブルに置いた荒熊さんが諸手を上げる。

 店員としてお店のためになる提案ができた志希も、少しばかり得意げだ。


「じゃあ、そんな素敵なイベントを開くためにも、明日は頑張るとしようか」


「はい! 明日香ちゃんと紗代さんの縁、絶対に結び直しましょう」


 志希と荒熊さんは湯飲みで乾杯し、互いに明日の健闘を誓い合った。