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 ベッドに入ると、明日香はすぐに眠りに落ちてしまった。今日は喧嘩したり考えたりと色々あったから、心も体も疲れ切っていたのだろう。
 ぐっすり眠る明日香の布団を直してあげながら、志希は穏やかに微笑んだ。
 すると、その時だ。部屋のドアが、控えめにノックされた。明日香を起こさないよう静かにドアを開けると、バーの営業を終えたらしい荒熊さんがそこにいた。

「お疲れ様です、荒熊さん」

「ありがとう。明日香ちゃんは、もう寝た?」

「はい。疲れていたらしく、今はもうぐっすりです」

 志希がベッドの方を振り返る。耳を澄ますと、明日香の規則正しい寝息が聞こえた。

「そっか。――ところで志希ちゃん、僕に話したいこととかあったりする?」

「さすがは荒熊さんです。――では、居間でちょっとお話を聞いてもらえますか?」

「もちろん」

 コクリと頷く荒熊さんへ、志希は「ありがとうございます」と微笑む。
 荒熊さんには先に居間へ行っていてもらい、志希はまず台所でお茶の用意をした。
 熱々のお茶が入ったら居間へ迎い、湯飲みを荒熊さんの前のテーブルに置く。そして、志希は自分の湯飲みを持って彼の対面に座った。
 お茶で口を湿らせ、志希は「単刀直入に言います」と切り出す。

「明日香ちゃんと紗代さんの問題を解決するには、“もう一人”の力が必要だと思うんです。なので……荒熊さんの力を貸してくれませんか?」

 志希は荒熊さんへ、「お願いします」と頭を下げる。
 紗代の話を聞いた時から、こうすることは決めていた。明日香と紗代、ふたりを救える可能性のある手段を、志希はこれ以外に思いつけなかったから。