志希の予感は、しっかりと確信に変わった。やはり、明日香の中で結論は出ていたのだ。明日香は、戦うつもりでいる。


 でもそれは、紗代とではない。自分と紗代を縛る状況そのものと戦い、打ち勝つつもりでいるのだ。

 志希、そんな明日香の背中を眩しそうに見つめた。


「やっぱり明日香ちゃんは勇敢です。私は……最後まで勇気を持てなかったのに……」


「え? ごめん、姐さん。ドライヤーの音で、よく聞こえなかったよ」


 志希が小声で呟くと、明日香が肩越しに振り返る。

 そんな明日香に、志希はドライヤーを止めながら、「いいえ、何でもありません」と微笑みながら首を振った。


「明日香ちゃんが戦うというのなら、私は明日香ちゃんを全力で応援します。私にできることがあれば、いくらでもお手伝いしますよ」


「うん! ありがとう、姐さん」


 そう言って、明日香はニッといつもの明るい笑顔を見せてくれた。

「ねえ、姐さん。あたしね、夢がふたつあるんだ」


「ふたつですか? それは、一体どんな?」


「ひとつは、おっかさんみたいな落語家になること。高座に上ったおっかさんは、あたしのヒーローなんだ。あたしも、あんな風になりたい」


「なるほど。もうひとつは?」


「おっかさんと並べるくらいの落語家になって、あたしとおっかさんの二枚看板で落語会を開きたい!」


 キラキラと瞳を輝かせた明日香が、高らかに夢を語る。

 すると、なぜか志希まで瞳を爛々と輝かせ、グッと拳を握り締めて力説し始めた。


「明日香ちゃんなら、どちらもきっとできますよ。明日香ちゃんのファンである私が保証します。それと、落語会を開く時は、絶対に呼んでくださいね」


「もちろん! 最前列の特等席を用意するよ!」


「ありがとうございます。じゃあ、約束です」


 志希は明日香と小指を絡め、指切りをして約束するのだった。