紗代が帰って数時間後。あらいぐまにお泊りすることになった明日香は、志希に髪を乾かしてもらっていた。


「明日香ちゃんは、髪の毛がサラサラですね。羨ましいです」


 明日香の髪にドライヤーを掛けていく志希は、鼻歌交じりの上機嫌だ。ふたりで夕食の準備に続き、志希にとっては妹ができたみたいでうれしいようだ。


 しかし、明日香の方はずっと上の空という感じだ。志希が話しかけても、反応が薄い。志希にとっては、そこがちょっと残念といったところだ。もっと和気あいあいと楽しめたら、さらにうれしいのだが……状況が状況だけに、それは諦めるしかないだろう。明日香は母親公認とはいえ、一応家出中なわけだし。それに、あんな話を聞いた後では……。

 志希がそんなことを考えていたら、不意に明日香が「ねえ、姐さん」と声を掛けてきた。


「どうかしましたか、明日香ちゃん」


「あたし、どうすればいいのかな。おっかさんのために、落語を捨てるべきなのかな」


 明日香から出てきたのは、やはり紗代のことだった。

 我を通すべきか、母を思いやるべきか。

 明日香はずっと考えていたのだろう。……いや、もしかしたら明日香はもう――。


「明日香ちゃんは、落語を捨てても大丈夫なのですか?」


 予感を確信に変えるために志希が問うと、明日香はフルフルと首を振った。

「おっかさんの辛さもわかったけど、あたしは落語を続けたい。おとっさんとの絆ってこともあるけど、やっぱりあたしは落語が好きだから。――それに、おっかさんにもまた落語をやってもらいたい。大好きなことができないなんて、悲し過ぎるもん。天国のおとっさんも、今のおっかさんを見たらきっと悲しんじまう」


 強い眼差しで前を見つめ、明日香は言う。