「さすが旦那。全部お見通しだったか」
明日香が頬を掻きながらニシシと笑って扉の陰から出ていく。
志希もその後に続き、「盗み聞きしてすみません」と謝った。
「僕は別に怒ってないよ。それよりも明日香ちゃん――お母さんの気持ちを聞いて、どうだった?」
盗み聞きの件はあっさり流し、荒熊さんは明日香に問い掛ける。
「おっかさんも辛かったんだなっていうのはわかったよ。あと、あたしはあたしのことしか考えていなかったってのも……」
荒熊さんからの問い掛けに、明日香も居住まいを正して真剣に答える。
「それじゃあ――明日の朝、お母さんと仲直りできそう?」
「それは……まだわからない。でも、あたしも頭を冷やして、おっかさんときちんと話してみようとは思う」
さらに重ねられた荒熊さんの質問に、明日香は考える素振りをしながらも、きっちり自分の言葉で考えを述べていく。
荒熊さんの質問は、まだ十歳にも満たない子供に問うには重過ぎるものだと、志希は思う。というか、志希が当事者だったとしたら、絶対にうまく答えられない。
それなのに、きちんとその問いに向き合おうとしている明日香は、紗代が言っていた通り本当に強い子なのだと思う。志希は十歳近く年の離れたこの女の子に対し、心の底から敬意を抱いた。
「うん。今はそれで十分だ」
明日香の答えに、荒熊さんも満足げに頷いていた。
明日香が頬を掻きながらニシシと笑って扉の陰から出ていく。
志希もその後に続き、「盗み聞きしてすみません」と謝った。
「僕は別に怒ってないよ。それよりも明日香ちゃん――お母さんの気持ちを聞いて、どうだった?」
盗み聞きの件はあっさり流し、荒熊さんは明日香に問い掛ける。
「おっかさんも辛かったんだなっていうのはわかったよ。あと、あたしはあたしのことしか考えていなかったってのも……」
荒熊さんからの問い掛けに、明日香も居住まいを正して真剣に答える。
「それじゃあ――明日の朝、お母さんと仲直りできそう?」
「それは……まだわからない。でも、あたしも頭を冷やして、おっかさんときちんと話してみようとは思う」
さらに重ねられた荒熊さんの質問に、明日香は考える素振りをしながらも、きっちり自分の言葉で考えを述べていく。
荒熊さんの質問は、まだ十歳にも満たない子供に問うには重過ぎるものだと、志希は思う。というか、志希が当事者だったとしたら、絶対にうまく答えられない。
それなのに、きちんとその問いに向き合おうとしている明日香は、紗代が言っていた通り本当に強い子なのだと思う。志希は十歳近く年の離れたこの女の子に対し、心の底から敬意を抱いた。
「うん。今はそれで十分だ」
明日香の答えに、荒熊さんも満足げに頷いていた。