「まあ、そんなわけで僕たちはお互い微妙な立場というわけですよ」
そして、志希が感じ取ったことは荒熊さんも当然わかっているのだろう。勢いを削がれたことで少し落ち着いたと見える紗代へ、「どうぞ、お掛けください」と促した。
「あなたと明日香ちゃんのすれ違いの原因については、明日香ちゃんと初めて会った時に聞きました。ですが、あなたが落語を嫌うようになった理由は、明日香ちゃんにもわからないとのことだった……。よろしければ、理由を話してくれませんか?」
そして、荒熊さんがそう続けて語り掛けると、明らかに紗代の表情が変わった。まるで助けを求めるように、目を潤ませ始めたのだ。
志希は一瞬、これも荒熊さんの持つ神様としての力なのかと思った。神様の力で、紗代が話し出すように仕向けたのだと……。しかし、志希はすぐにそうではないということに気が付いた。
おそらく、荒熊さんが力を使ったとか、そういうことではないのだ。もっと単純に、紗代自身も人知れず苦しみ、助けを求めていたということなのだと思う。荒熊さんが神様として何かをしたとするなら、紗代が心の奥に抱えていたその願いを見つけ出し、掬い取ったといったところだろうか。
まあ、今の志希に真実はわからない。
だが、紗代が会話のテーブルに着いたというのは、大きな進展だ。志希は明日香と共に、固唾を飲んで事の成り行きを見守る。
そして、志希が感じ取ったことは荒熊さんも当然わかっているのだろう。勢いを削がれたことで少し落ち着いたと見える紗代へ、「どうぞ、お掛けください」と促した。
「あなたと明日香ちゃんのすれ違いの原因については、明日香ちゃんと初めて会った時に聞きました。ですが、あなたが落語を嫌うようになった理由は、明日香ちゃんにもわからないとのことだった……。よろしければ、理由を話してくれませんか?」
そして、荒熊さんがそう続けて語り掛けると、明らかに紗代の表情が変わった。まるで助けを求めるように、目を潤ませ始めたのだ。
志希は一瞬、これも荒熊さんの持つ神様としての力なのかと思った。神様の力で、紗代が話し出すように仕向けたのだと……。しかし、志希はすぐにそうではないということに気が付いた。
おそらく、荒熊さんが力を使ったとか、そういうことではないのだ。もっと単純に、紗代自身も人知れず苦しみ、助けを求めていたということなのだと思う。荒熊さんが神様として何かをしたとするなら、紗代が心の奥に抱えていたその願いを見つけ出し、掬い取ったといったところだろうか。
まあ、今の志希に真実はわからない。
だが、紗代が会話のテーブルに着いたというのは、大きな進展だ。志希は明日香と共に、固唾を飲んで事の成り行きを見守る。