「おっかさん……」
声に反応して明日香が顔を上げ、志希は階段の方へ目を向けた。
今の声は、間違いなく紗代のものだ。志希が予想していたよりも遅かったが、どうやら紗代が明日香を探しに来たらしい。
志希と明日香は顔を見合わせ、無言でひとつ頷き合う。そして、音を立てないように階段を下りていき、店に出るドアの陰からそっと様子を窺った。
「明日香、こちらに来ているんですよね? 今すぐ出してください」
「確かに、明日香ちゃんはうちにいます。今、上で志希ちゃん特製のカレーライスを食べていますよ。超うまいんですよ、これがまた。オムライスとは別の魅力でして」
見れば、荒熊さんと紗代は押し問答の真っ最中だった。……というか、紗代が一方的にがなり立て、それを荒熊さんがのほほんと受け流している。
正に、暖簾に腕押し、糠に釘。
さすがは神様というか、何というか……。紗代からちょっとやそっと怒鳴られるくらい、屁でもないらしい。いや、むしろ紗代に怒鳴られているのを楽しんでいる節まである。
「……すごいね、旦那。あんなに怒鳴られてもピンピンしている」
「……ええ。私だったら、確実に心が折れています。さすがは荒熊さんです。ドMさんです」
「……姐さん、ドMって何?」
「…………。……明日香ちゃんには、まだ早いです。忘れてください」
覗いているふたりは、荒熊さんの図太さに感心しきりだ。
声に反応して明日香が顔を上げ、志希は階段の方へ目を向けた。
今の声は、間違いなく紗代のものだ。志希が予想していたよりも遅かったが、どうやら紗代が明日香を探しに来たらしい。
志希と明日香は顔を見合わせ、無言でひとつ頷き合う。そして、音を立てないように階段を下りていき、店に出るドアの陰からそっと様子を窺った。
「明日香、こちらに来ているんですよね? 今すぐ出してください」
「確かに、明日香ちゃんはうちにいます。今、上で志希ちゃん特製のカレーライスを食べていますよ。超うまいんですよ、これがまた。オムライスとは別の魅力でして」
見れば、荒熊さんと紗代は押し問答の真っ最中だった。……というか、紗代が一方的にがなり立て、それを荒熊さんがのほほんと受け流している。
正に、暖簾に腕押し、糠に釘。
さすがは神様というか、何というか……。紗代からちょっとやそっと怒鳴られるくらい、屁でもないらしい。いや、むしろ紗代に怒鳴られているのを楽しんでいる節まである。
「……すごいね、旦那。あんなに怒鳴られてもピンピンしている」
「……ええ。私だったら、確実に心が折れています。さすがは荒熊さんです。ドMさんです」
「……姐さん、ドMって何?」
「…………。……明日香ちゃんには、まだ早いです。忘れてください」
覗いているふたりは、荒熊さんの図太さに感心しきりだ。