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 そのまま明日香を見せの入り口に立たせておくわけにもいかないので、志希はひとまず彼女をカウンター席に座らせた。
 けれど、明日香はばつが悪いのか、ちょっと居心地が悪そうだ。

「はい、明日香ちゃん。ココア。あったまるよ」

「ありがとう、旦那」

 そんな明日香の心情を慮ったのだろう。荒熊さんが、温かなココアを明日香に振る舞う。
 ココアをちびちびと飲んだ明日香は、体の芯が温まるのに従って、心の緊張も解けてきたのだろう。次第に肩の力が抜けて表情が柔らかくなってきた。

「さてと、一服したところでお話にいこうか。明日香ちゃん、家に帰ってから、何かあったのかな? お母さんと取っ組み合いの喧嘩でもした?」

「ちょっと荒熊さん! そんなストーレトに言っちゃダメですよ! デリケートな問題なんですから!」

 歯に衣着せぬ荒熊さんの物言いに、志希が慌てて待ったをかける。
 しかし、訊かれた当の本人である明日香が、そんな志希を制した。

「いいんだよ、姐さん。むしろ、このくらいズバッと聞いてくれた方が、あたしも話しやすいしさ」

「明日香ちゃん……」

「それにさ、旦那が言ったこと、中らずといえども遠からずって感じだし。さすがに取っ組み合いはしなかったけど、今まで一番大きな喧嘩をしちゃったよ」

 心配そうな目をする志希に、明日香は軽い口調で「まいったね」と言う。
 ただ、それが空元気であることは、誰の目にも明らかだ。実際、明日香はすぐに沈んだ顔となってため息をついた。