荒熊さんのアナウンスを聞くと、常連たちは本を読むのをやめて「よっ! 明日香ちゃん!」「待ってました!」などと囃し立て始める。常連以外で唯一残っていたお客さんたちも、何が始まるのかと明日香の方に注目した。
店中から注目を集めた明日香は、パーカーのカンガルーポケットから愛用の扇子を取り出し、「どうも、どうも」と色んな方向へ会釈する。
「ようこそのお運び様で、厚くお礼申します。さてさて、荒熊の旦那のご厚意でこの場を設けていただきましたのでね、一生懸命一席申し上げさせていただきます」
お客さんみんなからの注目を浴びている明日香だが、その態度は小学生とは思えないくらい堂々としたものだ。物怖じすることなく、流れる水のようにスルスルと言葉が出てくる。
「さてさて、時に江戸時代ってえのは、何ともまあ独特な時間の数え方をしていたようでしてね。夜の十時頃を“夜四つ”、深夜十二時頃を“暁九つ”なんて数えていたそうです」
そして、明日香は流れるように演目に入っていく。
時間の数え方が出てきたので、今日は『時そば』をやるつもりのようだ。いくつかあるレパートリーの中で、明日香が最も得意としている演目である。今日は常連さんではないお客さんも残っているので、自分の得意かつ有名どころの演目を選んだのだろう。
店中から注目を集めた明日香は、パーカーのカンガルーポケットから愛用の扇子を取り出し、「どうも、どうも」と色んな方向へ会釈する。
「ようこそのお運び様で、厚くお礼申します。さてさて、荒熊の旦那のご厚意でこの場を設けていただきましたのでね、一生懸命一席申し上げさせていただきます」
お客さんみんなからの注目を浴びている明日香だが、その態度は小学生とは思えないくらい堂々としたものだ。物怖じすることなく、流れる水のようにスルスルと言葉が出てくる。
「さてさて、時に江戸時代ってえのは、何ともまあ独特な時間の数え方をしていたようでしてね。夜の十時頃を“夜四つ”、深夜十二時頃を“暁九つ”なんて数えていたそうです」
そして、明日香は流れるように演目に入っていく。
時間の数え方が出てきたので、今日は『時そば』をやるつもりのようだ。いくつかあるレパートリーの中で、明日香が最も得意としている演目である。今日は常連さんではないお客さんも残っているので、自分の得意かつ有名どころの演目を選んだのだろう。