「と……とりあえず、新しいおうちを探しに行きましょう! それとお仕事も! こういう時こそ、迅速に行動せねば!」

 このままでは、誰かに不審者として通報されかねない。志希は半ば自棄のように前向きなことを言って、自分を奮い立たせる。

 まあ実際のところ、寝泊まりするところの確保が急務なのも確かだ。高校の制服しかない今の状況では、ホテルだって泊めてくれるかわからない。早急に不動産屋へ行って、新しい住居を確保しなければならない。怪我の功名と言うべきか引っ越しは必要ないので、できれば今日から即入居できる住居がベスト。

 そして住居が決まったら、今度こそ仕事を見つけに行かなければ……。

「はぁ……。ふたつとも一気に解決できる手段でもあれば、苦労が半分で済むのですが……」

 遺影をリュックサックにしまい、志希はため息交じりに願望を口にしながら歩き始める。
 だが、そんな都合のいい話がそこら辺に転がっているはずもない。ましてや、昨日から不運続きの自分では、めぐり合うことは絶対に不可能だろう。

 しかし、その時だ。

「……ん?」

 不意に、志希の足が止まった。そして、来た道を少しばかり引き返す。
 再び足を止めた志希の前に建っていたのは、温かみを感じさせるログハウス風の建物だ。どうやらカフェらしく、入り口の扉の上には『ブックカフェあらいぐま』とある。

 世の中のカフェ事情に疎い志希には、ブックカフェというのはよくわからないが、まあ本がたくさん置いてあるカフェとか、そんな感じだろう。前にテレビの情報番組で、コンセプトカフェとかいうものの特集を観たことがあるが、おそらくその類のものだと思う。

 そして、そんなカフェの扉の横には、一枚の紙が貼り出されている。そこに書かれていた内容は……。

「求人……。住み込みOK……」

 貼り出された求人広告を見つめ、志希がわなわなと震える。
 求人――つまり、これは働く人を求める広告だ。この店は、働き手を求めている。
 給料はそれほど高くないが、それよりも重要なのは備考欄。そこに書かれた『住み込みOK』の六文字だ。これは要するに、この店で働くことができれば、職場がそのまま住居にもなるというわけで……。

 わななく志希は、一度ゴクリと喉を鳴らし、「フウ……」と息を吐く。
 そして、改めて大きく息を吸い込み――。

「都合のいい話、ありました!!」

 住宅街に、志希の驚きに満ちた声が響き渡った。