そう言って荒熊さんが語ったのは、彼が土地神になるまでの物語だ。
 荒熊さん曰く、彼も最初はただのアライグマだったらしい。それも、日本生まれではなく、アメリカ生まれの。

「僕がまだ仔アライグマだった頃ね、森で親とはぐれちゃってさ。その後、なんか色々あった末に黒い船に乗っちゃったんだよね。で、人間に見つからないよう隠れていたら、何か日本の浦賀ってところに着いちゃってさ」

「それ、もしかしてペリーさんの黒船では……」

 そういえば船で一番偉そうな人がそんな名前だったね~、とのんきな荒熊さん。
 ともあれ、黒い船を降りた荒熊さんは日本での新生活を始めたらしい。

「でも、すぐに食いっぱぐれちゃってね。行き倒れていたところを、前の土地神に拾われたんだ」

 そう言って、荒熊さんが遠い目をする。なぜか、毛皮越しにもわかる青い顔で……。
 前の土地神は、荒熊さんのことを大層珍しがったらしい。そして、おもしろそうだから、と自分の神使にしたそうだ。

「で、それからは前土地神にこき使われる毎日だよ。あの人、優しい顔してアライグマ使いが荒いったらありゃしなくてさ。炊事洗濯、他の神様へのお使い……。百年近くパシリにされたよ」

「百年も……。それは、大変でしたね」

 嘆き口調の荒熊さんに、志希は同情的な視線を向け、労わるような言葉を掛ける。
 しかし、これがいけなかった。志希が親身に話を聞いたことで、荒熊さんのスイッチが入ってしまった。