荒熊さんに呼ばれ、志希も張り切ってスコーンの準備に取り掛かる。

 スコーンをオーブンで温めながら、冷蔵庫から梅ジャムを取り出す。すると、コーヒーを淹れている荒熊さんが、後ろ手にブイサインをしているのが目に入った。


 なるほど、と思いつつ、志希は梅ジャムをいつもよりスプーン二杯分多く盛りつける。新しい門出を祝して、お店からのサービスということだろう。

 スコーンの準備を終えてコーヒーを受け取りに行くと、ジャムの小皿を覗いた荒熊さんが小声で「グッジョブ!」と言ってくれた。


「どうぞ、ブレンドコーヒーとスコーンです」


「ありがとう、志希ちゃん」


 志希にお礼を言った源内は、まずコーヒーの香りを十分に楽しんで一口。そしてスコーンを手に取り、梅ジャムをたっぷり塗って頬張る。

 梅ジャムの味を堪能した源内はスコーンを皿に置き、ほう、と満足げに吐息を漏らした。


「やはり、この梅ジャムと荒熊さん特製ブレンドコーヒーの組み合わせは最高だ。この味を忘れることは、きっとできないだろうな……」


 ポツリと呟いた源内は、カウンターの中で並び立った志希と荒熊さんへ視線を向ける。


「明日からは引っ越しの準備が忙しいから、もうここへ来ることはできない。けれど来年、梅ジャムがおいしい季節になったら、またこの店に来るよ。――今度は、家族を連れてね」


「ええ、お待ちしていますよ」


「私も、楽しみにしています!」


 再びこの店を訪れることを約束する源内に、志希たちは歓迎の意を伝えるのだった。