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 ――とまあ、そんな人生最大クラスの災難に見舞われたのが、数時間前の話。

 ちなみに志希がアパートから脱出した後、すぐに消防車がやってきて消火に当たった。
 幸いにも死者や重傷者は出なかったが、アパートは全焼。その後、怪我がなかった志希は、軽い事情聴取を受けた。
 どうやら火事の原因は、二部屋隣に住んでいた男性のたばこの不始末だったらしい。事情聴取の際、そう教えられた。

 火事の原因はすぐに判明したので、志希はすぐに解放された。
 とはいっても、火事で焼け出された事実は変わらない。家やら何やらをすべて失った志希は、こうして青空よりもさらに顔を青くして、住宅街で立ち尽くすことなったわけだ。

 周囲は平和なのに、自分はただ今人生最大の危機に直面中。泣きたい気分である。

 母が残してくれた貯金もあるし、手続きすれば火災保険も下りるだろう。よって、即ホームレスといった事態は避けられるだろうが……今はショックで心がついていかない。

「お母さん、私、ちょっとくじけそうです……」

 リュックサックから取り出した母の遺影を取り出し、志希は力ない口調で話し掛ける。

「ママー、あのおねえちゃん、おしゃしんにはなしかけてるー」

「しっ! 見ちゃいけません。こっちに来なさい」

 近くを通り掛かった親子が、足早に立ち去って行った。
 その様子を、志希は驚きと深刻さが入り混じった表情で見送った。
 どうやら今の自分、相当怪しい人に見えているらしい。まあ、往来の真ん中でいきなり写真に話しかける人物を見かけたら、自分も逃げる気がする。