やがて夢の時間は終わりを告げ、世界が再び真っ白な光に包まれる。気が付けば、志希たちはすっかり暗くなったあらいぐまにいた。


「戻ってきたんですね」


「うん。記憶の世界はあれで終わりだ。長く留まり過ぎると、こっちに戻ってきたくなくなっちゃうからね」


 荒熊さんの言葉に、志希も無言で同意する。あの世界は、一種の理想郷だ。だからこそ、不用意に留まり過ぎれば、そのまま抜け出せない底なし沼にもなってしまう。


「源内さんは……」


 志希が見れば、源内は本を手にしたまま、呆然と立ち尽くしていた。心ここにあらずといった感じだ。


「あの、源内さん……?」


「ん? ――あ、ああ、志希ちゃん」


 志希に声を掛けられた源内が、ようやく意識を取り戻したように動き出す。


「大丈夫ですか? ご気分が悪かったりは……」


「ああ、大丈夫だよ。体の方は問題ない。まあ、何というか今もまだ夢見心地といった気分ではあるけどね。志希ちゃん、あれは一体……」


「すみません。それは企業秘密ということで……」


 源内からの追及を、志希は答え辛そうにはぐらかした。

 荒熊さんから、神様の力ということは他言無用と言われている。深く話すことはできない。

 源内も、そこら辺の事情を汲み取ったのだろう。


「そうか。なら、いいんだ。深くは追及しない。二人のおかげで、かけがえのない経験ができた。それだけで十分だ。本当に、ありがとう」


 お礼だけ言うに留め、源内はそれ以上“秘密”を探ることはしなかった。

 それならば、今度は志希のターンだ。おずおずと、源内に問い掛ける。