『これはあくまで、ただの記憶の再生でしかなく、記憶に登場する物や人物へ干渉することができない。例えば記憶に登場する人と触れ合ったり、話したり――要するに意思疎通することができないんだ』


『つまり、あくまでホームビデオを観ているような感じにしかならない、と……』


『そうなるね』


 頷く荒熊さんの前で、志希は表情を再び曇らせてしまった。同じ場所にいることができたとしても、それでは源内さんの願いを叶えたとは言えないだろう。

 やはり、何も手はないのか……。そう思って、志希が諦めかける。

 しかし、そこで荒熊さんが力強く志希の手――というか、指を握ってきた。


『だから、そこで志希ちゃんに力を貸してもらう。志希ちゃんのそのバカでかい霊力をお供え物という形で僕に提供してもらい、その力を上乗せして僕が記憶の世界に干渉できるようにする』


 荒熊さんの力強い言葉に、志希は自分の目が大きく見開かれていくのを感じた。


『あとは、源内さんに会わせる前に、干渉できるようになった記憶の中の奥さんへ、少し事情を説明してあげればいい。奥さんが源内さんの言う通りの人なら、それでうまくやってくれるんじゃないかな』


 その程度の時間操作、記憶の世界でならお茶の子さいさいだからさ、と荒熊さんは気楽に笑ってくれた。

 その気楽さに、志希はこれ以上ない頼もしさを感じたのだ。