* * *
そして、午後六時。あらいぐまは閉店の時間となり、志希は表のOPENの札をひっくり返し、CLOSEDに変える。
すると、その時だ。背後から、「志希ちゃん」という待ち人の声が聞こえてきた。
志希が振り返ると、源内がいつもの穏やかな笑顔で軽く手を上げていた。
「約束通り、来させてもらったよ」
「源内さん。お待ちしていました。とりあえず、店の中へ」
志希は源内を閉店直後のカフェの中へ通す。中では荒熊さんもカウンターで待機しており、源内の来店を会釈で迎える。
あらいぐまがバーとして開店するまで、一時間。店に誰かがやってくることはない。
「わざわざこんな時間にご足労いただき、どうもありがとうございます」
「いやいや、どうせ気ままな独り暮らしだ。気にしないでくれ。それと、言われた通り、本を持ってきたよ」
お礼を言う荒熊さんへ気楽に返事をしつつ、源内はカバンから一冊の本を取り出してカウンターへ置いた。
あしらわれた梅の花が鮮やかな、見惚れるほどきれいな装丁の本である。
「素敵な装丁ですね。まるで本物みたいにきれいな梅の花」
「それに、四半世紀が経っているとは思えないほど、きれいだ。源内さんと奥さんがどれほどこの本を大事にしていたか、よくわかります」
「ありがとう。そう言ってもらえると、私も誇らしいよ」
志希と荒熊さんが感嘆した様子で感想を述べると、源内もうれしそうに微笑んだ。
「それで、本題だが……これから一体、どうするつもりなのかな」
源内に問われ、志希は荒熊さんへと目を向ける。荒熊さんが頷くのを確認し、志希は源内に向き直った。
「源内さんはこの本をしっかり持って、目をつぶっていてください」
「それだけかい? では……」
本を持った源内が、目を閉じる。
それを確認し、今度は志希が源内の持つ本の上に手を載せた。同時にカウンターテーブルにちょこんと載った荒熊さんが、志希の手に自分の小さな手を重ねる。
その瞬間、志希は自分の中にある何かが、荒熊さんへ流れ込んでいくのを感じた。
そして、源内の本が光を放ち始める。カフェの中は、たちまち本が放つまばゆい光で白く染められた。
そして、午後六時。あらいぐまは閉店の時間となり、志希は表のOPENの札をひっくり返し、CLOSEDに変える。
すると、その時だ。背後から、「志希ちゃん」という待ち人の声が聞こえてきた。
志希が振り返ると、源内がいつもの穏やかな笑顔で軽く手を上げていた。
「約束通り、来させてもらったよ」
「源内さん。お待ちしていました。とりあえず、店の中へ」
志希は源内を閉店直後のカフェの中へ通す。中では荒熊さんもカウンターで待機しており、源内の来店を会釈で迎える。
あらいぐまがバーとして開店するまで、一時間。店に誰かがやってくることはない。
「わざわざこんな時間にご足労いただき、どうもありがとうございます」
「いやいや、どうせ気ままな独り暮らしだ。気にしないでくれ。それと、言われた通り、本を持ってきたよ」
お礼を言う荒熊さんへ気楽に返事をしつつ、源内はカバンから一冊の本を取り出してカウンターへ置いた。
あしらわれた梅の花が鮮やかな、見惚れるほどきれいな装丁の本である。
「素敵な装丁ですね。まるで本物みたいにきれいな梅の花」
「それに、四半世紀が経っているとは思えないほど、きれいだ。源内さんと奥さんがどれほどこの本を大事にしていたか、よくわかります」
「ありがとう。そう言ってもらえると、私も誇らしいよ」
志希と荒熊さんが感嘆した様子で感想を述べると、源内もうれしそうに微笑んだ。
「それで、本題だが……これから一体、どうするつもりなのかな」
源内に問われ、志希は荒熊さんへと目を向ける。荒熊さんが頷くのを確認し、志希は源内に向き直った。
「源内さんはこの本をしっかり持って、目をつぶっていてください」
「それだけかい? では……」
本を持った源内が、目を閉じる。
それを確認し、今度は志希が源内の持つ本の上に手を載せた。同時にカウンターテーブルにちょこんと載った荒熊さんが、志希の手に自分の小さな手を重ねる。
その瞬間、志希は自分の中にある何かが、荒熊さんへ流れ込んでいくのを感じた。
そして、源内の本が光を放ち始める。カフェの中は、たちまち本が放つまばゆい光で白く染められた。