* * *


 志希が昼食を取って戻ってくると、荒熊さんはカウンター席に座った老人と談笑していた。


「すみません、荒熊さん。今、戻りました」


「ああ、志希ちゃん。お帰り」


 志希の声に反応し、荒熊さんが手の代わりに尻尾を振ってきた。……かわいい。

 志希が荒熊さんのフリフリ動く尻尾を目で追っていると、カウンター席の老人が穏やかな目で彼女の方を見た。


「荒熊さん、この子は新しい店員さんかい?」


「そうですよ。今日から働き始めた期待の新人、志希ちゃんです。――志希ちゃん、こちらは源内(げんない)明義(あきよし)さん。うちの常連さんだよ」


「はじめまして、小日向志希と申します」


 荒熊さんの紹介を受けて志希が挨拶すると、源内は「よろしくね」と微笑んだ。何だか見ていて安心してしまう笑顔だ。

 すると、不意に何かを思い出した様子の荒熊さんが、志希の隣で手を叩いた。


「そうそう! 源内さん、確か梅が好きでしたよね。今週から手作りジャムのひとつを梅ジャムに変えたんですよ。いかがですか? 今年もいい出来ですよ」


「ほほう、それは心惹かれる。荒熊さんの梅ジャムはおいしいからね。じゃあ、今日はスコーンとその梅ジャムをもらおうか。あと、いつもと同じブレンドを」


「ありがとうございます。――志希ちゃん、スコーンの準備、お願いね」


「了解です!」