荒熊さんに見送られ、志希は二階の台所へ向かう。フライパンをふたつ用意して、ひとつでチキンライスを、もう一つで薄焼き卵を慣れた手つきで作っていく。最後にふたつを合体させれば、志希特製オムライスの完成だ。母が『世界一うまい! 最高!』と絶賛してくれた、志希の得意料理だ。

 自分の分と荒熊さんの分をお盆に載せ、志希はお店へと戻る。


「お待たせしました。どうぞ、荒熊さん!」


「待ってました!」


 オムライスとスプーンを受け取った荒熊さんが、「いただきます!」と言うや否や、猛烈な勢いでオムライスをかき込んでいく。実はこの志希特製オムライス、荒熊さんのお気に入りでもあるのだ。志希がここに住み始めた日の晩御飯で作ってから、もう病みつきといった感じだ。

 すると、そんな荒熊さんの様子をカウンター席から見ていた明日香が、猛然と抗議の声を上げた。


「旦那、ずるい! ひとりでそんなおいしそうなもの食べて!」


「志希ちゃんの料理は、『おいしそう』ではなく『おいしい』のです。おかげで志希ちゃんが来てから、僕の体重は増加の一途!」


「ぐぬぬ……。旦那みたく太りたくないけど、なんか悔しい……」


 腰に手を当て、なぜかえっへんと自慢げに胸を張る荒熊さん。そのお腹が、たぷんと揺れる。

 そのお腹を凝視しながら、明日香は言葉通り悔しそうに歯ぎしりする。

 すると、志希が自分の分のオムライスをカウンター越しに明日香へ差し出した。


「よかったら、明日香ちゃんも食べますか?」


「え? でも、それって姐さんの分だよね。あたしが食べちゃったら、姐さんの昼ご飯がなくなっちゃうよ」


「大丈夫ですよ。材料はまだあるので、また作ってきますから」


 心配そうに訊いてくる明日香に、志希は優しく微笑みながら答える。

 すると、本当は食べたかったらしい明日香が、うれしそうに瞳を輝かせた。